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内部被曝との闘い 緒戦「勝利」した南相馬市

Japan In-depth / 2016年7月27日 12時26分

 原発事故から三年目の段階で、住民が内部被曝するとすれば、土壌に含まれる放射性物質を吸収した植物、あるいはそのような植物を摂取した動物や魚を食べる場合に限定される。内部被曝を避けるには、汚染された食材を食べないことだ。では、実態はどうだったのだろう。

 坪倉たちの調査によると、住民の25.8%が、流通している食材では無く、地元でとれた野菜・果実を食べていた。米は13%、乳製品は2.1~3.4%(タイプにより異なる)だ。一方、流通外の魚・肉・キノコを食べている人は皆無だった。

 「震災3年目の段階で、福島県産の食材を食べるなんて」と驚かれる読者も多いだろう。ただ、これはそんなに不思議なことではない。南相馬市は地元の食材の汚染度を検査していたが、当時、すでに野菜や果物から放射性物質が検出されることは稀だった。多くの国民が思うほど、危険ではなかった。

 さらに行政や農協による食材の検査体制が充実していた。このような検査体制は、地元の食材だけでなく、流通している食材も対象とした。福島県民に限らず、多くの日本人は市場で購入した食材を調理するか、あるいは外食をする。内部被曝を防ぐには、流通する食材の検査体制の方が遙かに重要である。

今回の研究で、土壌汚染が強い地域に住んでいた住民の殆どで内部被曝を認めなかったのは、このためである。官民をあげての検査体制が、福島県民を内部被曝から守ったことになる。

では、今後の課題は何だろうか。それは、ごくまれに存在する高いレベルの内部被曝を認める住民への対応だ。今回の研究でも247.2ベクレル/キロものセシウム137を認めた人がいた。露地物の山菜やキノコを、放射線検査を受けずに食べていた人だ。

このレベルの内部被曝でさえ、年間の内部被曝量は許容範囲内という考え方もあるが、不要な被曝を避けた方がいいことは言うまでもない。放射線について、十分に情報提供する必要がある。

今回の研究の問題は、悉皆調査(しっかいちょうさ 注1)でないことだ。南相馬市では、小中学生に対しては内部被曝検査を学校健診に組み込んでいるが、それ以外は希望者が受診するだけだ。前出の人物は氷山の一角の可能性が高い。このような放射線に無関心な住民は、今後、増加する可能性が高い。

また、これで検査体制を緩めていいと言うわけではない。1986年に起こったチェルノブイリ原発事故では、住民の内部被曝が最大になったのは、原発事故から12年目だった。1991年の旧ソ連崩壊による経済危機もあったが、住民が汚染された食材を摂取するようになった。油断したのだろう。

坪倉たちの研究が示すように、南相馬市は内部被曝との闘いの長期戦の緒戦を「勝利」した。ただ、被曝対策は長期戦だ。検査体制を維持し、教育活動を継続する必要がある。

(注1)         悉皆調査(しっかいちょうさ)

調査探究しようとする事象を全体に亘り、重複することなく行う調査方法。

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