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人権侵害事件の黒幕、入閣の怪 インドネシア・ジョコウィ大統領の胸中 その1

Japan In-depth / 2016年8月9日 18時0分

そしてどの事件も陸軍あるいは国軍の最高責任者として関与、黙認、指揮していたと批判されているのがウィラント司令官なのだ。ウィラント氏自身はいかなる人権侵害事件への関与も強く否定していたが、東ティモールの裁判所が「人道に反する容疑」で訴追、欧米をはじめとする国際社会からの追及、圧力が高まり、インドネシア当局も人権侵害の容疑でウィラント氏を事情聴取せざるを得ない事態に追い込まれた。ウィラント氏は閣僚を辞任して捜査対象となるものの「証拠不十分」で責任追及はうやむやに終わっていた。

ウィラント氏自身は甘いマスクで歌が上手くラブソングを吹き込んだCDを販売するほど実力がある。英語も流ちょうで外国人記者にはとても丁寧に対応するなど一見「人当たりの言い軍人」だが、ち密に計算して立ち回る権謀術数に長けた「戦略家」としての手腕は国軍内部に依然として支持層を持つ政治家として稀有な存在でもある。

そのウィラント氏の起用に対し、米国務省は直ぐに反応。「内閣改造はジョコウィ大統領の専管事項であるが、ウィラント氏が国軍司令官在任時の人権侵害事件に関心を持っている。人権擁護は米政府の最も重要な政策の一つである」(アレン国務省報道官)とやんわりとしかし明確な不快感を示した。

さらに、インドネシアの有力な人権組織「行方不明者と暴力の犠牲者のための委員会」(コントラス)、国家人権委員会(コムナスハム)などが一斉に「過去の人権侵害事件への関与が濃厚なウィラント氏が政治法務治安を担当する調整相に就任することで自らの疑惑を闇に完全に葬る危険性がある」と指摘。主要英字紙「ジャカルタ・ポスト」なども「ウィラント氏の起用はインドネシアの人権問題への取り組みの後退を意味する」「ジョコウィ大統領が人権問題に真剣に取り組む必要がないことを示した人事」などと厳しく批判した。

■憶測呼ぶ大統領の真意

今回の内閣改造では財務相に世界銀行専務理事で前ユドヨノ政権の財務相だったスリ・ムルヤニ女史を再登用したことやリニ国営企業相の留任も注目された。リニ国営企業相はジョコウィ大統領が所属する与党闘争民主党(PDIP)の党首、メガワティ元大統領が強く交代を求めていた人事とされ、これを大統領が一蹴したことで、メガワティ党首と近いウィラント氏の入閣とリニ国営企業相の残留が「セットで取引された」との観測が一部ででていた。

しかしこの観測は「メガワティ元大統領がリニ大臣の解任を求めていたのは事実だが、ウィラント氏の入閣には一切関与していない。あくまでジョコウィ大統領の判断だ」とPDIP幹部は明かし、別の理由を示唆した。

ではなぜジョコウィ大統領は内外の批判を覚悟でウィラント氏を起用したのか。①政党間の駆け引きという政治力的理由②インドネシアの負の歴史というパンドラの箱を開けさせない封印説③台頭する国軍への重しという治安上の背景――などが有力視されている。

(その2に続く。全2回)

トップ画像:当時のウィラント国軍司令官©大塚智彦

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