フィリピン米国離れ中国接近の真相 ドゥテルテ大統領のしたたかさ その1
Japan In-depth / 2016年9月17日 18時0分
■米軍退去要請、合同パトロール不参加表明
フィリピンのミンダナオ島には米軍特殊部隊107人がイスラム過激派対策やフィリピン軍の教育訓練の目的で駐留している。この駐留米軍に対しドゥテルテ大統領は退去を要請した。さらに南シナ海で対中強硬姿勢を示す一環として実施している米とフィリピンによる合同パトロールについても「米中どちらにも加担したくない。自分たちの領海をパトロールしたいだけだ」と述べて、合同パトロールに参加しない意向を表明した。
そして同じ演説でこれまで米国、イスラエルなど同盟国から調達していた軍装備品の調達先にロシア、中国をも検討していることを明らかにした。「20年から25年の借款契約を2国と合意している。その2国に対し武器、装備がほしいとすでに伝えてある」としてすでにロシアと中国との間で武器・装備調達に関する何らかの合意があることを示唆した。フィリピン軍事筋によると、対外戦争を想定していないフィリピン国軍が装備近代化で必要としているヘリコプターや装甲車、ハイテク通信機器、人道支援、災害支援用の各種機器などをロシア、中国に提示しているという。
これに対し中国はドゥテルテ大統領の大統領専用機を提供する考えを示したとされているが、フィリピン情報当局が「中国からの大統領専用機供与は秘密保持や機体の信頼性で問題がある」として反対する意向という。
■米国離れは中国接近のサインか
こうした一連のドゥテルテ大統領の発言や行動を見る限り、フィリピン外交の基軸である親米路線、米軍との同盟関係を見直そうとしており、その結果として中国に接近しようとしているとみることもできるだろう。
中国との間の最大の懸案である南シナ海の領有権問題ではフィリピンがオランダ・ハーグの仲裁裁判所に中国の「南シナ海のほぼ全域に及ぶ領有権の主張」の違法性を訴え、今年7月12日に「中国の主張に法的根拠はない」との「勝利の裁定」をフィリピンは得ている。ところが中国は仲裁裁判所の裁定を「単なる紙屑」として無視、「あくまで領土問題は関係当事国の2国間で解決する問題」として日米や国際社会の関与を拒絶している。こうした中、ドゥテルテ大統領は就任直後にラモス元大統領を特使として中国に派遣して「領土問題を2国間交渉で協議する」という対中柔軟姿勢に転じたと報道された。
米特殊部隊の撤退、米との合同パトロール不参加、米以外の国からも武器調達と立て続けのドゥテルテ大統領の発言をみれば、オバマ大統領に対する暴言を伏線として確かに米国離れを意図的に狙っていることがわかる。そしてその米国離れと表裏一体となっているのが中国への急接近の傾向である。
6月30日の大統領就任以来、ドゥテルテ大統領が派遣したラモス特使は中国に歓迎され、中国はこの機に乗じて一気にフィリピンを親中に変換させようと躍起となっている。武器、装備の供与、大統領専用機の提供に加えてアフリカやカンボジア、ラオスを「籠絡」させている中国の得意技である「経済援助」まで持ち出して一気にフィリピンを引き込もうとしているのだ。
その結果、中国の劉振民外務次官をして「中国とフィリピンの関係は今転換点にある」(9月13日に訪中したフィリピン外交関係者に対して)とまで言わしめるまでになっているのだ。
(その2に続く。)
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