テレビ離れとメディアの二分化
Japan In-depth / 2016年9月19日 18時0分
為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)
前にnewspicksの梅田さんがしきりに“課金モデルで成り立つメディアが必要なんです”と言っていて、その時はなんでこんなに主張しているのだろうと思っていたのだけれど、最近少し腑に落ちるようになってきた。
幾つかのメディアに月額でお金を払っているけれど、特に一つ一つの記事を見て払っているのではなく、ざっくりとなんとなくここいいなという感覚で払っている。しっかりとした裏取りや、時々飛んでくる意外な視点の記事などが積み重なり、信用となっているのだろうと思う。反対に、そんなの絶対払わないという友達もいる。違うメディアにお金を払っているのかもしれないし、そもそもお金を払わない人なのかもしれない。
スポンサーモデルのテレビは、これまで枠の数に対し、広告を入れたいところが多かったためにどちらかというとテレビ側が強く出れたのではないかと思う。広告入れてあげるよぐらいの感じで。そういう時は多少細かいことで何かあっても気にせず番組を作れたのではないか。ところが、インターネットの台頭もあってか少しずつテレビ離れが始まってきて、スポンサーも厳しめに見るようになってきて、そうなるととにかく一つ一つの番組で問題を起こさないようにしないとと思うようになったのではないか。テレビの広告を買ったことがないので、どういう気持ちになるのかが全く想像もつかないけれど。
シニカルな笑いや、ブラックジョークは、文脈依存的で、文脈がわからないとそれが笑えない。アメリカのスタンドアップコメディを日本語にしたところであんまり笑えない部分があるのは、文脈依存的で日本人だと知らない背景があるからだと思う。文脈依存的な笑いはどうしても知識と理解と寛容と、そして社会で共有されている文脈が必要になる。
政治家の失言がよく問題になるけれど、現場に居合わせるとすごく面白いし、文脈全体で見るといいことを言っている。ところが、その文脈がわからないと怒る人がいる。けしからん、あいつはなんだとなってしまう。嫌な感じかもしれないけれど、わかる人にしかわからない笑いというのは、わかる人にはどかんとくる。
課金モデルは(課金をしてくれている)わかる人にわかればいいという立場をつらぬけるのに対し、一般を広く覆うメディアはすべての人を対象にするために一部の人の批判を気にせざるを得ず(余裕がなくなると特に)、結果として誰にでもわかる冗談しか言えなくなるのではないか。インテリ層はどこも少しひねったもの、よく裏を読まないと理解できないものを好む傾向にあると思う。そういう意味ではメディアは二分化されるのかもしれない。
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