難民・移民の移動と国際テロの現状
Japan In-depth / 2016年9月22日 18時0分
植木安弘(上智大学総合グローバル学部教授)
「植木安弘のグローバルイシュー考察」
第71回国連総会の幕が開いたが、各国の首脳が集まって「一般討論」を行う前日の9月19日、難民や移民の移動に関するサミット会合が開催され、ニューヨーク宣言が採択された。と同時期に、ニューヨークのマンハッタンや隣のニュージャージー州で、アフガニスタン出身の米国人若者が一連の爆破事件を起こし、警察官との銃撃戦で負傷して逮捕される事件が起きた。
ミネソタ州でも、ソマリア系移民の大学生によるナイフ切り付け事件があり、「イスラム国」が自らの関与を表明した。大量かつ無秩序な難民や移民の移動が国際問題化し、新たな国際的指針を形成しようとする努力がなされている一方、難民や移民の流入に反発する排他的言動が、ヨーロッパ各国や米国で高まっている。
難民や移民の移動に関するニューヨーク宣言では、昨年2億4千万人を超えた移民対策と、6千5百万に上った難民、亡命希望者や国内避難民への対処から生じた様々な問題に対処する必要性を強調し、難民や移民の人権と基本的自由を確保するために、ホスト国への支援や負担の共有、難民や移民を大量に出している問題への対処、さらに、長期的解決策の形成を呼び掛けている。
また、アネックスで包括的難民対応枠組を採択し、さらに、2018年には、難民に関するグローバル・コンパクトや、「安全で、整然とした、通常の」移民対策に向けたグローバル・コンパクトを成立させることを謳った。
難民や移民へのコミットメントとして、国際法に基づき、「人を中心とし、個人のニーズに応じた、人道的、威厳を尊重し、ジェンダーに配慮する」対応策を取るとし、難民や移民に対する搾取や暴力行為などに対しては、必要な措置を取ることを決意している。
しかし、大量かつ無秩序な難民や移民の移動は、最近また盛り返しており、移動の原因となっているシリアやイラク、アフガニスタンなどでの紛争は、一向に解決の目途が立っていない。また、エリトリアや他のアフリカ諸国からの、リビアを通じた移民の移動も続いており、国境の管理などは全く出来ていない状況である。
多くの難民や移民が目指すドイツでは、大幅な受け入れを表明しているアンゲラ・メルケル首相率いるキリスト教民主連合(CDU)が、最近のベルリンの地方選挙で敗北し、移民受け入れに反対する右翼政党が躍進するケースが出てきている。来年の総選挙で敗れるのではないかとの憶測が強まっている。国内でテロ事件に揺れるフランスでも、来年の総選挙で、移民排他主義を唱えるナショナル・フロントの躍進が懸念されている。Brexitの英国では、ポーランド系の移民などに対する排斥的言動や暴力行為が伝えられている。
米国でも、共和党大統領候補のドナルド・トランプが、違法移民の追放やメキシコとの国境での「壁」の建設などを主張して、リベラル派から強い反発を受けているが、今回の米国でのテロ事件を受けて、イスラム教徒に対して「思想的踏み絵」や「人種プロファイリング(選別)」を行うべきだと、極めて差別的な発言をしている。
これに対して、民主党大統領候補のヒラリー・クリントンは、入国審査の厳格化やイスラム教徒コミュニティーへのアウトリーチ活動の強化を提案しているが、テロの続発は排他主義を高揚させる可能性があり、大きな懸念材料になっている。
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