副大統領候補ディベート 大統領との矛盾の有無に注目 アメリカのリーダーどう決まる? その28
Japan In-depth / 2016年10月6日 18時30分
大原ケイ(米国在住リテラリー・エージェント)
「アメリカ本音通信」
10月4日、共和党のドナルド・トランプと、民主党のヒラリー・クリントンそれぞれの副大統領候補が最初で最期のディベートを行った。この2人、表立ったところでは似た者同士と言える。共和党のマイク・ペンスはインディアナ州知事、民主党のティム・ケインはバージニア州知事。2人とも白人男性、結婚して31年、従軍している息子がおり、宗教的に保守的、周りの評判は「ナイスガイ」と共通点が多い。
決定的に違うのは、それぞれの大統領候補の考え方との温度差だろう。ティム・ケインは政策的にほとんどすべてクリントンのそれと同じ方針や政策を掲げており、副大統領の最重要使命である「大統領に万が一のことがあった時」に即座にトップの座に就任し、ブレることなく政権の継続が図れるベテランの政治家だ。クリントンもそれを期待して、もっとパートナーとして話題になったであろう元対立候補のバーニー・サンダースや、民主党内のリベラル層の支持を得ていたエリザベス・ウォーレンではなく、地味だが堅実な右腕を選んだとされている。
一方、政治家としての経験が全くなく、共和党内でも支持が割れているトランプは、自分が抱え込めなかった宗教観重視の保守派をマイク・ペンスに説得させ、また大統領となった時には実務のほとんどを仕切れる人物として彼を選んだ。
ディベートの表層だけを見れば、ケインが司会の制止も聞かず、攻撃的に何度もペンスの答弁の最中を遮って発言し、ペンスはそれを受けて終始、落ち着き払った態度をとったことで「ペンスの勝ち」という印象になる。だが、議論の内容に踏み込んでみると、司会がペンスの言い分に矛盾や嘘があるのをまったく指摘しないが故にケインはいちいち「今の発言は事実ではない」と訂正しているのに対し、ペンスがケインの答弁にクチを挟む場合は、事実にもかかわらず「それはウソだ」「トランプはそんなことを言っていない」「馬鹿げた指摘だ」と口出ししているのがわかる。
特に、トランプが選挙活動中に主張してきた「違法移民を捕える特別警察を組織する」「メキシコとの国境に壁を作る」「そのうち納税記録を公開する」「日本や韓国も核兵器を持つべき」「中絶をした女性は罰せられるべき」という発言を「そんなことは言っていない」と否定しているのは注目に値すべきだろう。
特に、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領が大好きなトランプは、ロシアに友好的な外交政策に固執しているが、ペンスはシリアや領土問題で米国とロシアが対立した場合、戦争をも厭わない、いわば従来の共和党タカ派でも口にしないような危険な外交方針に言及した。つまり、マイク・ペンスはトランプに是非にと請われて副大統領候補にはなったが、彼と全面的に折り合うことはせず、もしトランプが負けた時、自分の政治生命がそこで尽きてしまわないように配慮して発言しているとも取れる。
そしてディベートでペンスが「勝った」と言われたことに、自分がいちばん注目されたいトランプが反発し、彼をなじるような発言をしてパートナーシップが崩壊するリスクもあったが、後日トランプの反応は「勝てる賢いパートナーを選んだ自分に見る目があった」とこれも自分の手柄のようにぶち上げた。
だが、これまでの大統領選挙で副大統領候補同士のディベートで、浮動票が大きく動いたためしはない。これも本選挙が終わってみれば、そんなこともあったな、という程度のステップでしかないだろう。選挙後に注目されるのは、トランプと共闘した後に、州知事再選というキャリアを手放したペンスが再び共和党内で迎え入れられるかどうか、かもしれない。そういう意味では、大統領選と同時に行われる各州の議員選挙や州知事選挙を控えている候補が今後、ペンスのようにうまく立ち回れるのかに衆目が移りそうだ。
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