次期国連事務総長の課題 グテレス元ポルトガル首相の任命
Japan In-depth / 2016年10月7日 11時0分
植木安弘(上智大学総合グローバル学部教授)
「植木安弘のグローバルイシュー考察」
混戦した次期国連事務総長選が終結した。10月5日、国連の安全保障理事会(安保理)で第6回の仮投票が行われ、常任理事国の反対がなかったアントニオ・グテレス元ポルトガル首相が唯一の候補として国連総会に勧告され、総会によって任命されることが決まった。 第6回目の仮投票では、ブルガリア政府が一週間前に推薦を切り替えたEU副委員長クリスタリーナ・ギョルギエヴァ女史が対抗馬として注目を集めた。また、グテレス氏に対し、常任理事国のロシアがどのような投票態度を示すかが大きな関心だった。ロシアは、今回の事務総長選ではこれまで一度も選ばれたことが無い東欧出身の事務総長選出を標榜してきた。今回の仮投票では、常任理事国と非常任理事国を色で識別し、常任理事国の態度が明確になる方式を採った。 10人の候補で行われたが、7月の第一回仮投票から首位の座を守ってきたグテレス氏が13票を獲得し、不支持ゼロ、「意見なし」の棄権が2票となった。この2票のうち1票が常任理事国だったが、ロシアであったことは明白だ。過去5回の仮投票でグテレス支持に固まる中、ロシアが押す候補者は米国によって葬られる可能性が高かったこともあり、安保理決議採択に必要な9票以上を唯一確保してきたグテレス氏に表立って反対することは、ロシアの今後の国連外交を進めていく上で得策でないと判断したものを見られる。 グテレス氏は来年1月1日から5年の任期を与えられるものと思われる。それまで約3ヵ月の準備期間が与えられる。移行チームが結成され、まず、最初に上がってくる課題は高級人事である。副事務総長や事務次長、事務次長補といった政治任命を模索していくことになる。これまで、事務総長一期目には常任理事国から中枢のポストを選ぶことが多かったが、政治的にこの姿勢を崩すことは難しいであろう。従って、どの常任理事国がどの高級ポストを取るかが注目される。 国連平和維持活動(PKO)では、中国なども関心があり、これまで20年に渡ってPKO局長のポストを独占してきたフランスとの確執も予想される。英国は政務局長ポストを取り返したいところであろうし、米国はこれまでの政務局長ポストを維持するか財政を扱う管理局長ポストを再度要求するかである。副事務総長については、途上国の女性が選ばれる可能性が高い。先進国と途上国、そしてジェンダー・バランスにも配慮する必要があるからである。今年から来年にかけて非常任理事国を務めている日本にとっても、高級ポストの取得は大きな関心事項である。現在、管理局長のポストを占めているが、その前は広報局長のポストや軍縮局長ポストに日本人が選ばれる傾向が強かった。一時期、事務次長と事務次長補の二つの政治任命ポストを得ていたこともあり、少なくともその二つくらいは獲得したいところである。日本の国連外交手腕が試される時である。 人事の他には、国連事務局の組織のあり方もレビューすることになろう。特に、大規模となっているPKOや政治派遣団などのサポートをどのように改善するか、政務局とPKO局をそのまま残すのか、改革するのか、といった課題がある。また、シリア紛争やイェメン、リビア、南スーダン問題、難民や移民など、幾つもの政治課題が待ち構えている。「世界で最も困難な仕事」と言われる国連事務総長職である。先ず、有能な人材を幅広く求めて、良いチームを作ることから始めることが望ましい。外部リンク
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