沖縄基地問題は解決可能 自壊した日本の安全神話その6
Japan In-depth / 2016年10月28日 0時0分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
「林信吾の西方見聞録」
間もなく米大統領選挙の結果が出るが、私は前回、今次の結果いかんに関わらず、そう遠くない将来、アジアにおける軍事的プレゼンスなど犠牲にしてでも国内経済の再建を優先させる「内向き」の大統領が登場するであろう、との意見を開陳させていただいた。いや、たとえ大方の予想通りヒラリー・クリントン政権になったとしても、過去の政権に比べて「内向き」の度合いが強まることは避けがたい。
TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に対するクリントン・トランプ両候補の態度が、温度差と言うべき段階にとどまり、本質的な差異が見られないことからも、それは容易に予測できることである。もちろん、年末に新政権が誕生したとして、向こう5年間のうちに沖縄の海兵隊が撤退するという可能性はごく小さい。 しかしながら、これも前回述べたように、冷戦終結後しばらくの間、自衛隊が北海道偏重の配備を変えなかったという教訓も踏まえて、今から「駐留米軍なき沖縄」の未来図も、きちんと描いておかねばならない。 前回と同じく、10月14日に開催された、Japan In-depth創刊3周年の記念シンポジウムの話題となるが、すでに紹介させていただいたフィッシャー氏の他、元防衛大臣の中谷元代議士、民主党政権時代に防衛副大臣を務めた、現・民進党の長島昭久代議士のお三方に対し、「沖縄の米軍基地というものは、中国の脅威に対して有効な抑止力として機能していると、本当に言い切れますか?」と質問させていただいた。 いずれも、沖縄の海兵隊は在韓米軍と並んで、米軍がアジアに配している数少ない地上部隊であり、その存在だけでも大いなる抑止力である、と答えていただいた。 たしかに、地理的に沖縄は中国及び台湾海峡にも朝鮮半島にも近く、とりわけ南方から日本列島への脅威が迫ってきたような場合に、格好の防波堤となり得る位置にある。おそらくはこのことを踏まえて、フィッシャー氏は、「フィリピンの米軍基地が撤退した途端に、中国が一挙に南シナ海に進出してきた。この事実を忘れていただきたくない」とも発言された。 率直に申し上げて、これは米国の論理に過ぎないのである。我々日本人は、アジア太平洋戦争における沖縄戦の悲劇が、まさしく前述のような論理によって引き起こされたのだという事実を、忘れるべきではない。 もうひとつ、沖縄の米軍基地の現状(規模と機能)を冷静に見たならば、基本的に補給基地に過ぎず、海兵隊にせよ実戦力はたかだか1個大体規模、戦車も装備していない。現実の抑止力たり得ないことは、基礎的な軍事知識を身につけている者にとっては常識に近い。もちろん、実戦力だけが抑止力ではない。中国に限らずどこの国でも、沖縄の海兵隊を叩くということは、米国との全面戦争を辞さぬ決意なくしてはあり得ないことであろう。これは事実だ。 だからと言って、フィッシャー氏が主張されたように、米軍基地がなくなったら、ただちに中国の軍事的脅威が沖縄に迫ると言い切れるか。これはまったく別問題である。 本誌ではすでに、文谷数重氏が『中国が沖縄に攻めてこないわけ』と題した記事を寄稿されており、私も基本的にこの論考を支持するものであるが、強いて付け加えるなら、中国の軍部による「暴走」の可能性は、決して過小評価してはならないと思う。とどのつまり、現状の沖縄ヴィジョンと言うか「米軍基地不可欠論」は、軍事的な視点からは本末転倒なのである。 中国の軍事的脅威に対して有効なのは、航空優勢を含めた、渡洋作戦能力に対する抑止力だ。具体的には、地対空および地対艦のミサイルを配備し、航空自衛隊の戦闘機、海上自衛隊の対潜ヘリ部隊を増強することで、たとえ海兵隊が撤退しても充分に穴は埋まる。 いっそのこと、米海兵隊がグアムか周辺諸島に移転する費用を日本が負担することで、基地問題を解決に向かわせる、という選択肢もあるのではないか。旧西独は、旧東独に駐屯していたソ連軍の撤退に要した費用を負担することで、統一を大きく前進させた。 こうしたことを含めて考えるのが、真の意味での「戦後レジームからの脱却」であり、憲法改正論議はその後で腰を据えてやればよい、と私は考えるが、どうだろうか。この記事に関連するニュース
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