予測不能な米大統領選 投票まで後1週間
Japan In-depth / 2016年11月1日 11時0分
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー(10月31日-11月6日)」
早いもので来週8日は米大統領選挙の投票日だ。それにしても長い一年半だった。昨年夏から米国は勿論、世界中がドナルド・トランプという候補者に翻弄されてきたといって過言ではない。あの段階で今日の状況を予測できた人は殆どいない。トランプ自身も予想していなかったのではないか。日本人で予測していたという人がいたら、その人物は嘘つきか自意識過剰に違いない。
という訳で、今年ばかりは筆者も結果を予測するのは止めている。誰もが言いたい結論は一つだろうが、その常識的な予測がことごとく外れてきたからだ。「泡沫候補」が消えず、通常ならレッドカードの暴言が許されたばかりか、支持を広げ、本命が脱落し、遂に前代未聞の大衆迎合主義候補者が米国主要政党の大統領候補にまで上り詰めた。米国の専門家でも読めなかった結末だ。
筆者の今の関心は結果よりも、大統領選挙後の米国内政の動きだ。トランプ候補がコテンパンに負ければ、共和党の既存指導層にも反撃のチャンスがある。トランプ現象という「悪夢」は終わり、共和党再生を呼びかけることも可能だからだ。これに対し、トランプが惜敗すれば、共和党の現指導部は逆に信任を失う。トランプ現象は、文字通り、共和党をtake-over乗っ取るのだ。
ちなみに過去数回の選挙で顕著なのは、投票日が近付くにつれて、両候補の支持率が拮抗したり、劣勢だった候補が逆転したりすることが頻発することだ。これが米国民主主義のバランス感覚なのか、それとも新聞を売り視聴率を高めたい米国マスメディアの商業主義なのかは良く判らない。いずれにせよ、運命の日は、泣いても笑っても、あと一週間。米国有権者の良識を信じたい。
〇欧州・ロシア
日本では大きなニュースにならないが、31日からローマ法王がスウェーデンを訪問する。目的は宗教改革500周年を記念してルター派とローマカトリックが共同で式典を挙行するそうだ。500年経ってもカトリックとプロテスタントの蟠りは残っているのか。そういえばポーランド人はプロテスタントを「改革派カトリック」と呼んでいたっけ。
〇東アジア・大洋州
ミャンマーのスーチー女史が1日から訪日する。肩書は国家最高顧問だが事実上の元首だ。形式は公式実務訪問賓客であり、滞在中は天皇皇后両陛下が御引見になり、安倍晋三内閣総理大臣が会談し夕食会を催すというから、元首並みの扱い。文句はないが、彼女は大統領になれない。何かがおかしいと思うのだが。
〇中東・アフリカ
イラク・モスールの攻防戦は今も続いている。イラク正規軍などがもうすぐ市内に入るとの報道もある。入ったら入ったで地獄が待っているし、入らなければ物事は始まらない。ISは自爆するか、市民を巻き添えにするか、髭を剃って一般市民を装い生き延びようとするかのいずれかだろうが、どれ一つとして悲劇を伴わないものはない。
〇南北アメリカ
今週はクリントンのメール疑惑再捜査問題で大騒ぎが続いている。今回は現職のFBI長官が議会の共和党議員に対し再捜査を書簡で通報したというが、確かFBI長官は共和党員だったはず。ここに来て党派対立が再燃したのか、それとも実際に法令違反の嫌疑が深まったのか。この問題も大山鳴動して鼠一匹に終わるのか。
それにしても、このFBI長官の対議会書簡については民主党関係者が批判している。通常の司法手続きなら、投票日の10日前にはこんな動きはしない。こうなると、どこからが司法手続きで、どこからが政治権力闘争なのか分からなくなる。米国でも司法と政治の関係は難しい。今頃、ドゥテルテ大統領が高笑いしているのではないか。
〇インド亜大陸
6日から英国首相がインドを初訪問するという。
今週はこのくらいにしておこう。
いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
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