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ヒラリー候補はなぜ敗北したのか

Japan In-depth / 2016年11月10日 14時0分

ヒラリー候補はなぜ敗北したのか

西川賢(津田塾大学学芸学部国際関係学科教授)

 異例づくしだった2016年米大統領選挙が終わった。事前の予想ではヒラリー・クリントン候補の勝利を予想する声が多かっただけに、ドナルド・トランプ候補の勝利に衝撃を受けた人々は少なくなかったに違いない。何が予想を狂わせたのだろうか。この疑問に答えるため、このコラムでは最終的な選挙結果に関して若干の分析を行いたい。

各種世論調査やメディアによる選挙予想が軒並み的中しなかったことを批判する意見も多い。だが、今回の選挙結果については、ほとんどの州で事前の予想通りの結果が出ている点は注意しておきたい。だが、以下の4州のみは予想外の結果となっており、これが全体の結果も左右したと考えられる(日本時間11月10日現在、ミシガン州の最終結果が判明していないが、同州も予想外の一つだった可能性がある)。 ノース・カロライナ州:事前予想では勢力拮抗(Toss-Up)。最終的には得票率50.5%、46.7%でトランプ候補が勝利している。 フロリダ州:事前予想では勢力拮抗。最終的には得票率49.1%、47.7%でトランプ候補が勝利している。 ウィスコンシン州:事前予想では民主党優勢。最終的には得票率48.6%、46.1%とトランプ候補が勝利。 ペンシルヴェニア州:事前予想では民主党優勢。最終的には得票率48.8%、47.7%でトランプ候補が勝利。 ノース・カロライナとフロリダは事前の予想でも勢力が拮抗する激戦州に数えられており、どちらが勝利してもおかしくはなかっただけに、驚きは少なかった。しかし、民主党勝利の可能性が大きいと考えられていたウィスコンシンとペンシルヴェニアでのヒラリー候補の敗北は予想外だった。なぜクリントン候補はこれらの州で敗北したのか。 現時点ではデータなども完全にそろっていないため、いくつかの仮説を提示するにとどめたい。 第一に、第三政党支持層の影響である。今回の選挙では二大政党の候補のいずれを支持するか決めていない、あるいは第三政党の候補を支持すると回答した有権者が12%以上にのぼった。これは歴史的な接戦であった2000年の大統領選挙の9.6%を上回る大きな数字である。 ノース・カロライナ、ウィスコンシン、フロリダ、ペンシルヴェニアのいずれにおいても、第三政党に投じられた票がクリントン候補に投じられていれば勝利することが可能であった。二大政党のいずれも支持しがたいと考える層が予想以上に多く、彼らを民主党に誘引できなかったことは、クリントン候補の不利に作用したと考えられるのではないか。 第二に、ファリード・ザカリアが“Populism on the March”という論考の中で指摘するように、伝統的に左派政党は大きな政府を是とするリベラルな政策目標を掲げており、対して右派政党は小さな政府を目標に掲げてきた。かつては労働階層が左派政党、中産階層・富裕層が右派政党を支持するという伝統的な階層別投票のパターンがみられた。 ニューヨーク・タイムズの出口調査を見る限り、今回の選挙では年間収入3万ドル以下の層の41%がトランプ候補に投票しており、2012年に比べて16ポイントも増加している。年間収入が3万ドル以上4万9999ドル以下の層も42%がトランプ候補に投票しており、やはり6ポイント増加している。これに対して年間収入5万ドル以上9万9999ドル以下の階層の民主党への投票率が2ポイント、同じく10万ドル以上19万9999ドル以下の階層では9ポイント伸びている。 つまり、下流所得階層の間でトランプ候補が支持を伸ばしており、民主党は相対的に収入の多い層から支持されるようになって、かつて見られた経済的階級投票が希薄化しているのではないだろうか。いうまでもなく、下流所得層のほうが絶対数が多く、収入の多い層は相対的に少数であるため、下流所得層を中心に支持を伸ばすトランプ候補のほうが選挙で有利だったと考えられる。 第三に、2016年の選挙で意外だったのは、アフリカ系、ラティーノ、アジア系というエスニック集団(いわゆる「オバマ支持連合」)のクリントン候補に対する出口調査による投票率がいずれも2012年と比較すると少しずつ下がっているという事実である。移民やマイノリティに対する差別的言動で物議をかもしてきたトランプ候補だけに、これは意外な結果といえるかもしれない。いずれにせよ、2012年にオバマ大統領を熱心に支持してきた民主党支持連合の維持・拡張に失敗したという点も、クリントン候補の不利に作用したと考えられるのではないだろうか。 もちろん、以上の分析は単なる思いつきの仮説にすぎない。今後、本格的な分析が数多く展開されることだろう。重要なことは、「起ったこと」に感情的に対応するのではなく、事実に即した冷静な分析を続けていくことではないだろうか。 *本コラムで用いたデータは11月9日現在、Politico、New YorkTimesなどに掲載されているものを参照した。 

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