検診の大切さを再認識した日 NIPPON女性からだ会議®2016
Japan In-depth / 2016年11月7日 12時0分
安倍宏行(Japan In-depth 編集長・ジャーナリスト)
「編集長の眼」
20代、30代の女性に増えている子宮頸がん。しかし、検診を受ける女性は他の先進国に比べ決して高くはない。そうした中、女性の健康への意識を高め、がん検診の受診率を引き上げるために、東京都内でイベントが開催された。このイベントは、婦人科系疾患の予防啓発活動に取り組む一般社団法人シンクパールが主催した「NIPPON女性からだ会議®2016」で、100名近い人が参加、会場の外には子宮頸がん無料検診車も出動した。イベント最初に登壇した宇宙飛行士の山崎直子氏は、自らの宇宙での体験を紹介する中で、「私達の体の中には、60兆個という細胞が集まって機能している。これは一つの宇宙だと私は感じます。その一つの宇宙である自分の体をもっと目を向けて耳を傾けて検診に行って、自分自身の体を大切にすることがこれからの社会で大切なんだろうなと思います。」と語り、検診を呼びかけた。 次に登壇した、元JALのパイロットであり危機管理専門家の小林宏之氏は、健康管理も危機管理も同じ、と述べ、「かけがえのない人生」を健やかに生きるために、「いつだって今が旬!」と思い、自律心をもって自己コントロールしよう、と話した。 また、特定非営利活動法人日本医療政策機構副事務局長小山田万里子氏は、婦人科系疾患を抱える女性の年間の医療費支出と生産性損失の合計は6.37兆円との試算を示した。これを受け、検診受診率の向上や健康経営の重要性を強調した。 続いて行われたパネルディスカッション第1部「女性のからだ聞きたいこと伝えたいこと」には、産婦人科医吉村泰典氏、宋美玄氏、モデルの美優氏、藤森香衣氏、そして一般社団法人シンクパールの代表理事難波美智代氏が登壇した。
慶応大学病院名誉教授 内閣官房参与 吉村泰典氏は、女性健康寿命と平均寿命との差が12.4年あることを指摘。つまり、寿命を全うする前に寝たきりなどの状態になることを意味している。その上で、がん、骨粗鬆症などにかかりやすい女性のトータルヘルスケアが大事だ、と説いた。その為には予防的医療介入が必要になってくると強調し、最後に中国の故事「すでに病みたりを治せず、未だ病まざるを治す」を紹介して参加者の意識変革を促した。
また、吉村氏は、月経の管理が大切だ、と述べ、思春期から生理を大切にしてもらいたい、と述べると共に、子宮頸がんは、20代、30代にかかる割合が高い。ワクチンを安心して打てる状況が来る日が1日も早くくることを望む、と締めくくった。
産婦人科医の宋美玄氏は、乳がん検診の啓発は極めて成功しているが、子宮頸がんはあまり普及してない、と指摘。産婦人科に検診に行くことに対する女性の心のハードルを日々感じている、と述べた。思春期から産婦人科に行くことが身近になるといい、と訴えた。モデルの美優さんは、自身に高度異形成が見つかった体験から、仲間と検診に行くことの大切を訴えた。ピアスを開ける時のように、友達同士話をすれば、「じゃあ検診受けてみようかな」と思うのでは、と話した。
パネルディスカッション第2部「幸せな人生の選び方―健康から人生を考えるー」には、文科省和田勝行氏、産婦人科医対馬ルリ子氏、女性未来大学ファウンダー猪熊真理子氏、モデル・手話パフォーマー三城千咲氏、2016ミス日本酒(Miss SAKE)田中沙百合氏が登壇した。 文部科学省初等中等教育局保健教育・食育課長の和田勝行氏は、文科省が学校保健教育に力を入れている現状を紹介。がん教育、食育などにも近年力を入れていると述べた。女性の体についてもっと教育すれば、という声には、探りながらやっており、決して消極的ではない、と強調した。
産婦人科医の対馬ルリ子氏は、「自分の(妊娠・出産現場での)体験から、本当に酷い例を知っている。母親が娘に検診の大切さを伝えていく事が大切だ」と述べ、女性自身が自分の身体についてもっと知識を持つことの重要性を強調した。また、最近はヘルスケアアドバイザーを育て、地域と繋がる活動に力を入れていると述べた。
猪熊真理子氏は、女性のライフコースが多様化している現状を紹介、そうした環境変化が自分の体にどんな影響を与えるのかわかっていないことが問題だと指摘した。そして、「健康リテラシーが大事。アクション起こさないと後悔する。何を大切にしたいのかを知ること。それを大切にできる力を身につけることが大事。」と述べ、知識と実践の重要性を説いた。
2016ミス日本酒(Miss SAKE)田中沙百合氏は、自ら剣道を幼少期から続けてきて、検診など受けてきたことがなかったと述べた。スポーツに青春をささげてきたものとして、生理など女性としての身体の問題に触れること自体がタブーだった、と語った。これについて、対馬医師はアスリートのコーチなどが女性の健康に配慮してこなかった問題点を指摘。生理が止まっているということは排卵がないということであり、それは卵巣の機能が落ちている、ということでもある。練習をしすぎて生理が止まると骨がもろくなるなどのトラブルに見舞われることになる。そういう意味からも科学的な知見に基づいた指導環境の実現が必要と述べた。
これまでの取組が評価された2つの団体が表彰された。まず、ジョイフルライフ賞として、石鹸に楽しめる仕組みを加えることで手洗いを広めるプロジェクトを推進し、子供達の健康を守る活動が評価されたのが、にこたんソーププロジェクトを推進しているにこにこ一般財団法人。 代表理事浅野敬子氏に表彰状が授与された。
また、女性からだ会議大賞は、女性の人材育成とネットワーク作りの場を提供する取り組みを行っている青森県奥入瀬サミットプロジェクト奥入瀬サミット実行委員会が受賞し、副会長の小林央子氏と青森県企画政策部地域活性力推進課主査と古川香織氏が登壇した。 女性にとって自らの身体を知ること、健康な状態を維持するために何をすべきか、考え行動することの大切さを学んだ1日だった。同時に参加者の7割が女性で占められていたが、男性が愛する人の健康を積極的に考える社会にするためにも、より多くの参加が望まれる。こうしたイベントの今後の課題と言えよう。 トップ画像:「NIPPON女性からだ会議®2016」登壇者
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