トランプで石炭の復権なるか?
Japan In-depth / 2016年11月24日 23時0分
この石炭の減少を引き起こしたのは、天然ガス価格の下落だ。発電所渡しの天然ガスと石炭の平均価格が図-2に示されているが、石炭は輸送費が割高なので、平均の価格差が相当あっても発電所によっては天然ガスが競争力を持つことになる。また、石炭は燃焼前の粉砕などと燃焼後の灰の処理に費用が掛かり、天然ガスより3割近く安くなければ、競争力を維持できないとされている。石炭の生産数量と発電部門の消費量は図-3の通り減少を続けている。特に東部の生産数量の落ち込みが大きい。
トランプの政策は、石炭の採掘を容易にし、石炭のコストを引き下げることを目的とすることになるが、トランプはシェールガス・オイルの採掘も支援することを明らかにしており、シェールガスよりも相対的に有利な施策が必要だ。あるいは、税額控除制度により導入が進む再生可能エネルギーを相対的に不利にすることより、石炭需要を増やす施策もあるかもしれない。ここでは、まず石炭への独自の支援策を考えてみたい。次のようなことが考えられる。
・ 今年1月に内務省が行なった連邦政府所有地の石炭鉱業権付与の一時停止処分を解除する-米国法では、鉱業権は土地保有者が持つことになる。現在の石炭生産の40%近くは、連邦政府の土地から行われている。西部に多い連邦政府所有地の鉱業権は連邦政府が付与する形になるが、現在は停止されている。鉱業権が付与されると新規の炭鉱開発が行われる可能性が高い。
・ 石炭生産に関わる税、ロイヤルティを減額する-連邦政府の鉱業権を付与され生産を行う場合には、山元石炭価格の8%ロイヤルティを支払う必要がある。この減額を行えば、石炭会社の収益が改善される。
・ 石炭に関する環境規制を緩和する、あるいは石炭に関する環境規制を州政府に移譲する-クリーンパワープラン以外にも、様々な環境規制が炭鉱、石炭にはある。この緩和はコスト減につながる可能性がある。
・ 炭鉱の保証金制度を見直す-炭鉱の開発許可取得に際しては、生産終了後の現状復帰のため保証金を積む必要がある。この保証金の減額は石炭会社の財務負担を減らすことになる。
オバマ政権は、石炭生産の削減を図るため連邦鉱業権の付与を停止し、環境上の問題あるいは税額の問題を検討していたが、トランプ政権ではこれらの検討課題は全て白紙になるものとみられる。石炭の競争力を増す上記の政策が実行されたとしても、天然ガスとの競争に石炭が勝てるかどうかは様々な要素があり、不透明だ。トランプを大統領にする一翼を担った石炭業界への恩返しは難しいかもしれない。
(国際環境経済研究所HPより転載)
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