懸念される大規模対米テロ トランプ後の中東
Japan In-depth / 2016年11月29日 11時47分
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー(11月28日-12月4日)」
今週気になるのは米大統領選だ。えっ、もう終わった話だって?いやいや、まだ終わらないかもしれないのだ。僅差でトランプ陣営が勝利した激戦区ウィスコンシン州選挙管理委員会が得票の再集計を行うと発表、クリントン陣営もこれに参加する。ミシガンとペンシルバニアでも同様の動きが見られるという。
まだ泥仕合が続いているのかと憂うべきか、それとも外国のハッカー集団が大統領選挙の結果を操作するという前代未聞の事態だから当然と見るべきかは、読者のご判断に任せたい。これがクリントン陣営の悪足掻きでなく、外国による対米サイバー戦の一環だとすれば、大いに懸念すべき事態ではなかろうか。
たまたま石川県で「北国新聞」を読んでいたら、一面トップは「陸自に高度なサイバー攻撃」、「防衛省と自衛隊の駐屯地や基地を相互に結ぶ高速・大容量の通信ネットワークがサイバー攻撃を受け、システムに侵入されていたことが分かった」と報じていた。要するに、サイバー問題は他人事ではないのだ。
〇欧州・ロシア
EUがトルコに喧嘩を売り始めた。先週欧州議会はトルコとのEU加盟交渉凍結を求める決議を採択した。これに対し、トルコは難民対策をめぐるEUとの合意破棄を示唆して反発、エルドアン大統領はこの決議を受け「EUが次の動きに出れば(欧州を目指す難民らに)国境の門は開かれる」と警告したと報じられた。ちょっと異常ではないか。
結局欧州はトルコをEUメンバーにする気はないのだろう。トルコも薄々判ってはいたのだろうが、ここまで喧嘩を売られたら、買わざるを得ない。こんなことをやって、EUは一体どうするつもりなのか。これではロシアが喜ぶだけ、EU加盟問題の悪影響がNATOにまで及び始めたらどうするのか。やはりEUという組織の限界を感じる。
〇東アジア・大洋州
今週は北京で重要な会合が開かれる。まず28日には日中安保対話がある。日中の次官級で外交防衛関係者が集まる事務レベルの「2+2」みたいなものだが、どこまで話が進むだろうか。29日には日中外交当局間協議が開催される。今日中間で期待できるのは「信頼醸成措置」、要するに「無駄な喧嘩を避ける」メカニズムの創設だ。
〇中東・アフリカ
今筆者が一番気になるのはトランプ政権の中東政策だ。オバマがやってきた(というか、やってこなかった)対中東外交をトランプは全てひっくり返そうとしているのだろうか。対イラン政策しかり、対シリア政策しかりだ。特に、シリアではロシアとも妥協するかもしれないとすら噂されている。
その一方で、トランプ政権の下で昔の「ネオコン」が復活する兆候も見られる。オバマ政権の下で悪化した対イスラエル関係が改善し、サウジアラビアとも修復すれば、イスラム過激派とイランが対抗措置をとることは間違いなかろう。今後半年から一年ぐらいの間に米国に対する大規模なテロが起きる可能性はないのか、とても心配だ。
〇南北アメリカ
日本では大きなニュースにはならないのだが、カストロ議長の死去が米国のキューバ系社会に与える影響が個人的には気になる。キューバ系の若い世代には祖国に帰って国造りをしたいという声もあるらしい。だが、彼らはミレニアル世代であり、古い世代とは感覚が違うようだ。米国の内政を知るにはこうしたニュースも有用である。
〇インド亜大陸
特記事項なし。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
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