英国単純小選挙区制が変わらぬ理由 世界の選挙事情 その2
Japan In-depth / 2016年12月14日 13時30分
余談ながら、昨今日本で話題の「一票の格差」についても、英国の方が実は大きい。イングランドのワイト島では、有権者人口11万あまりに対して1議席、スコットランドのヘブリディーズ諸島では、2万1000人ほどで1議席となっている。実に5倍もの格差が存在するわけだ。ただしこれは、前者の場合は「本土の政治的対立が島にまで持ち込まれることによって」、後者は「本土の選挙制度に組み込まれてしまうことによって」、島の伝統的なコミュニティーに悪影響が及ぶ事を拒否し続けているからであり、当然ながら格差の解消を求める声などは聞こえてこない。
これでお分かりのように、英国において単純小選挙区制が今も支持されているのは、「議員が国政と選挙区の問題に、両方目配りができるようになっている」、「各選挙区の個別具体的な事情に、ちゃんと配慮がなされている」という、ふたつの理由によるものだと考えてよい。
しかし、わが国の小選挙区制に同様の機能を持たせようと考えたならば、なにしろ議員定数をかなり増やさなければ実現しがたい話で、時代に逆行する、と一蹴されるのがオチであろう。
もうひとつ、単純小選挙区制の利点として、二大政党制が定着し、なおかつ政権交代が起きやすい、とよく言われる。たしかにその通り、と言いたいところなのだが、本当はそこまで単純な話ではない。英国の総選挙では、党首の人気が選挙結果に大きく影響する。議院内閣制ではあるのだが、総選挙でもっとも多くの議席を獲得した政党の党首が、自動的に首相に指名されることになっているからで、とどのつまり英国の小選挙区制は、「間接的な首相公選制の機能を有している」と評価することができるのだ。
わが国でも、首相公選制を模索する動きがないわけではないが、英国の場合、有権者の意識が米国大統領選挙のそれに近くなってきた、という側面も見逃してはならない。日本も議院内閣制であるという意味においては、ほぼ同様のシステムだと考えることもできるのだが、有権者の大半は、自分の一票が議員を選ぶことはあっても、首相は与党内の力関係で決まるものだと考えている。
どのようなシステムであれ、その歴史的背景や人々の意識について知ることをせず、単に模倣したのでは、それこそ「仏作って魂入れず」の愚を犯すことになるであろう。
(その1、も合わせてお読み下さい。)
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