中国に喧嘩売るトランプ氏
Japan In-depth / 2016年12月20日 11時33分
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー(12月19-25日)」
早いもので、今年もあと二週間となってしまった。今週もトランプ次期大統領の驚くべき発言を取り上げざるを得ない。12月2日の台湾総統との電話会談に続き、11日にも対中爆弾発言が再び炸裂した。なぜ「一つの中国」政策に縛られる必要があるのかと疑問を呈したのだ。どうやら、トランプ政権は中国に本気で喧嘩を売る気らしい。
今回のトランプ氏の発言は確信犯であり、米国との関係改善の可能性に関する中国側の希望的観測を事実上無意味にする内容だ。さすがの中国も今回ばかりは黙っていられないのだろう。17日、中国人民解放軍海軍はフィリピン本土に近い南シナ海公海上で米海軍の無人潜水探査機を奪取したという。
中国国防部は、「不審な装置を発見し、船舶の航行と人員の安全に危害が及ぶのを防ぐため識別調査した」と述べた。これはトランプに対する中国側の警告的報復だが、それでも今回の中国側の対応は抑制されたものだった。中国側が直ちに「装置の返還」に言及したことは、米国との決定的対立を望んでいないことを示すものだ。
米中関係はこれからもギクシャクする。今回はその始まりに過ぎないが、より重要な問題は、トランプ政権が「一つの中国」政策を対中交渉材料の一つと捉える可能性があることだ。そのような素人的アプローチは東アジアだけでなく、全世界の米国の同盟国を懸念させるだろう。トランプ大統領はまだ就任すらしていないのに・・・。
〇欧州・ロシア
欧州はもうクリスマス気分らしく、重要日程は殆どない。唯一ロシアでは22日に恒例のプーチン大統領による記者会見がある。トランプ次期大統領、シリア、日露関係などについて如何なる発言をするかに個人的には興味がある。
〇東アジア・大洋州
15-16日の山口と東京での日露首脳会議の結果に「国民の大半はガッカリしている」と与党幹事長が述べ、別の幹部はメディアが期待値を上げ過ぎたという。手応えありと高揚感を隠さなかったのは官邸の方だとマスコミは反駁する。今回だけで領土問題が動くと信じた向きが落胆するのは当然だろう。
しかし、冷静になって考えれば、一回でロシア側が譲歩するなどと期待する方がどうかしている。ある意味で、この問題では戦後の日本の基本的外交戦略のあり方そのものが問われている。戦略環境が激変しかねない東アジアで、日本が戦略的方針転換するか否かが問われるという認識が国民には必要だろう。
〇中東・アフリカ
シリアのアレッポでの戦闘の行方が気になる。ロシアはオバマの米国にどこまで協力するのか。プーチンはトランプとの交渉まで切り札を切らないのか。いや、そもそも、ロシアにはシリア問題を解決するインセンティブがあるのか、疑問に思う時もある。浮かばれないのは、無実のシリア庶民だ。それにしても、何とかならないものか。
〇南北アメリカ
19日に本当の米大統領「選挙」がある。各州で選ばれた大統領「選挙人」が大統領を選ぶのだ。厳密に言えば、彼らには「投票の自由」があるらしい。つまり、万一、数十人の選挙人が「造反」すれば、トランプ大統領就任はなくなる、というのだが・・・。この種の議論は時折聞く話だが、それ以上でも以下でもない。
〇インド亜大陸
特記事項なし。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
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