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北朝鮮テロ支援国家指定に拉致問題明記を

Japan In-depth / 2017年2月28日 19時0分

北朝鮮テロ支援国家指定に拉致問題明記を

岩田太郎(在米ジャーナリスト)

「岩田太郎のアメリカどんつき通信」

 

 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(33)の指令で、友好国マレーシアのクアラルンプール空港において2月13日の白昼堂々、化学兵器禁止条約で製造・保有・使用が禁じられた猛毒の神経剤VXが、異母兄の金正男氏(享年45)の暗殺に使われたとされる事件は、米国をも震撼させた。

 北朝鮮は同条約に未署名とはいえ、世界中で禁止された猛毒を、外国の領土で、丸腰の自国民の殺害に使ったことで、2月12日の新型の中長距離戦略弾道ミサイル「北極星2型」発射という国連安保理事会の制裁違反の件も合わせ、米政府の態度は後戻りできないほど硬化している。

 

 すでに、トランプ政権発足後で初となるはずだった3月1~2日の北朝鮮高官と米政府の元当局者による接触は中止された。さらにトランプ政権は、北朝鮮を「テロ支援国家」に再指定する検討を始めたと報じられている。

 米国は1988年から2008年の20年間にわたり、北朝鮮を「テロ支援国家」に指定し、貿易や金融面で制裁を加えてきた。

 

 ところが、ブッシュ(息子)政権が指定を解除してしまい、さらに北朝鮮側も制裁をすり抜ける対応策を講じたことで、「もはや北朝鮮を『テロ支援国家』に再指定する意味はない」との声が支配的になっていたのだ。

 しかし、米政府が、「北朝鮮が金正男氏暗殺に、化学兵器禁止条約で禁じられた猛毒を使った」証拠をつかめば、「テロ支援国家」指定は現実のものとなる。具体的要件は、「大量破壊兵器拡散の援助、テロの計画・訓練・輸送・殺人の物質的幇助、それらに対する間接的・直接的な資金援助」だ。

 そもそも米国が1988年に北朝鮮を「テロ支援国家」に指定した要因は、金正日朝鮮労働党中央委員会書記(当時)が同年のソウル五輪開催妨害を狙って引き起こした1987年の大韓航空858便爆破事件(乗客乗員115人全員死亡)であり、その後、同じく金正日による日本人拉致も、指定の理由に加えられている。

 マレーシア警察による金正男氏暗殺の捜査が進み、北朝鮮による国家ぐるみの犯行が認定され、米国政府がその結果を追認すれば、レックス・ティラーソン国務長官(64)が北朝鮮を「テロ支援国家」に指定しない理由は、見当たらない。経済制裁の実効性に難があるものの、象徴的な意味は大きい。

 友好国マレーシアなどからも断交を突き付けられる可能性が高く、北朝鮮ナンバー2で中国との太いパイプだった叔父の張成沢を処刑して以来、中国からも見捨てられつつある金正恩は、世界的に完全な孤立をする。

 ただでさえ周りの者すべてに対して疑心暗鬼に陥っている金正恩が暴走を始め、朝鮮半島における局地戦を開始したり、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を米西海岸とハワイの間に射ち込んで、トランプ政権の報復を招く事態もあり得る。

 

 そうしたなか、忘れてはならないのが、金王朝の機密保持のため、未だ北朝鮮に抑留される横田めぐみさん(52)をはじめとする日本人拉致被害者たちだ。日本人拉致被害者たちに万が一のことがあれば、金正恩本人を含め、容喙(ようかい)しないとの強い態度を、改めて日本政府が打ち出す必要がある。

 その強い態度を裏付けるため、北朝鮮を「テロ支援国家」に再指定する検討を始めた「友人」のドナルド・トランプ大統領(70)に対し、安倍晋三首相(62)は、「再指定の理由に、日本人拉致と抑留を再び明記せよ」と迫るべきだ。

 つまり、北朝鮮が国際社会に復帰するには、テロを放棄するだけでなく、日本人拉致被害者を彼らの老親や家族の元に還さなければならないという条件を、米国に突き付けさせるのだ。米国による承認と安全保障が人生の目的と化した金正恩にとり、日本人拉致被害者に手を出させない抑止力になる。

 また、金正恩の暴走を防ぐため、将来の「テロ支援国家」指定解除という地政学的どんでん返しの可能性を残すことも大切だ。米・朝・日が手を結び、中国と対峙するシナリオにおいて、金正恩に経済協力という「エサ」を与えると示唆しておくのだ。そのような米国と日本からの安全保障を取り付けるには、日本人拉致被害者の即時全員帰国が必須だと、金正恩に教えておく必要がある。

 こうした展開をにらみ、日本人拉致被害者を「テロ支援国家」再指定理由に加えるよう、トランプ政権へ働きかけることこそ、官邸の最優先の課題である。

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