ナポレオンの死因をめぐる謎 暗殺の世界史入門その3
Japan In-depth / 2017年3月8日 18時0分
そのナポレオンと戦ったプロイセン陸軍においては、天才に対抗するには衆知を集めて、というわけで、軍隊の頭脳集団と言うべき「参謀本部」の制度が考え出された。これにより、作戦立案と実際の戦闘指揮が分業化され、より複雑な作戦を実施することが可能となったわけだ。
まさに、フランス革命からナポレオン戦争を経て、近代ヨーロッパの原型が作られたと言って過言ではない。その後、幾多の戦争に勝利を収め、ついにはヨーロッパの覇者となるわけだが、ロシアでの敗戦を皮切りに転落への道をたどり、1815年、ワーテルローの戦いで英・プロイセン連合軍に敗れ、最終的には南大西洋の英領セントヘレナ島へ流刑の身となった。
1820年に他界するが、死因が明確でなく、暗殺説も根強い。
順を追って説明させていただくと、公式には胃ガンと発表され、これは未だに覆されていない。ナポレオンの父親も胃ガンにより36歳で早世している事実が、有力な根拠のひとつとされているようだ。
ではなぜ暗殺説が根深いかと言うと、享年51という当時の感覚でもまだ若い最期であったことや、1814年に一度失脚し、地中海のエルバ島に送られたものの、強引に復位した前歴があったことから、英国側に、彼を暗殺する理由があったと見なされたのである。
南大西洋から遠路フランスへと送り返された遺体が全く腐敗していなかったことや、死後に頭髪からヒ素が検出されたことも、暗殺説の有力な根拠とされた。本人が臨終に際して、「私は英国人に暗殺された」と言い残した、とも伝えられているが、これについては真偽が不明である。
いずれにせよ、シリーズ第一回で私が、暗殺か否かを判断するのは動機が第一、と述べた理由も、これでお分かりいただけたであろうか。
私は医者ではないが、胃ガンの母親を看取った経験から、病状についてはよく知っており、末期の記録などの資料と付き合わせると、ナポレオンの死因は胃ガンでまず間違いないだろう、という心証を持たざるを得ない。
各国の権威ある医学者も同様に考えているに違いなく、したがって未だ胃ガン説が覆らないことは、すでに述べた。しかしながら、「ナポレオンを暗殺する動機を持つ者」が存在したこともまた事実で、暗殺説が根強い理由も、よく分かるのである。
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