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急激に悪化する高野病院問題

Japan In-depth / 2017年3月9日 18時0分

看護師も同様だ。診療報酬の施設基準を満足させるため、一定の看護師を確保しなければならなかった。年間に4500万円程度の補助金を受け取ったが、病院は毎年3000万円程度の赤字だった。

高野己保理事長は、「内部留保をほぼ使い尽くした」という。このままでは閉院するしかない。しかしながら、それも容易ではない。田舎の病院の土地や建物を転売することは難しい。病院が閉鎖されても税金はかかるし、建物を壊すには処理費用がかかる。

高野病院には10年以上入院している認知症患者や、住民票を病院に移している人までいる。彼らの転院先を探さなければならないが、どこも満床で、通常、数ヶ月を要する。その間、病院はスタッフを雇用しつづけなければならず、赤字を垂れ流す。地元の病院経営者は「閉院するまでに、さらに数億円の赤字になるでしょう」と言う。

 

■破たんは時間の問題

高野理事長は、福島県に病院の敷地・建物を寄附し、運営を委託しようとした。ところが、「福島県は高野病院を受け取る気はなかった(福島県関係者)」。なぜなら、一人で何役もこなしたオーナー院長が亡くなった以上、ますます赤字が増えるのは確実だからだ。財政難にあえぐ地方自治体にとって、巨額の赤字を垂れ流す病院は、厄介者以外の何物でもない。そのうち、高野病院サイドも寄附の意向を撤回した。福島県に頼っても仕方がないと覚悟を決めたのだろう。ただ、このままでは高野病院の破綻は時間の問題だ。

私には、経営者である高野一族だけで問題が解決出来るとは思えない。この問題が深刻なのは、高野病院が破綻した場合、被害を蒙るのが高野一族や彼らに資金を貸し付けている金融機関だけではないことだ。

高野病院には約100人の高齢者が入院している。彼らは路頭に迷う。多くの高齢者は認知症を抱え、しかも独居か高齢世帯だ。在宅医療・介護など不可能だ。認知症患者は、手間がかかる割に介護報酬は安い。更に疾病を抱えたら、介護施設が引き取る筈がない。厚労省は地域包括ケアシステムを整備し、在宅医療や介護を実現することを目標としている。机上の空論である。

 

■地元経済にも悪影響

地元経済にも大きな影響を与える。広野町にとって高野病院は「一流企業」だ。震災前の歳入総額36億7242万円(08年度)の広野町に、6億円以上の「売上」をあげる高野病院の存在は大きい。100人のスタッフの約半数は看護師で、フルタイムの常勤の年収は約500万円だ。広野町の住民の平均所得は310万円(2015年度)。広野病院の看護師は、地元にとって高額所得者で、地域の経済を牽引する。病院が閉鎖されれば、彼らは他の地域に移動する。

実は、これは高野病院だけの問題ではない。東邦大学の日紫喜光良医師の推計によれば、我が国では病院(20床以上)の約9%が「オーナーによる一人院長」体制である。多くの院長は高齢だ。病院が存続するには、最低1名の常勤医がいなければならない。もし、院長が倒れれば、病院は頓死する。

高齢化が進むわが国の地方都市で、病院の存在が不可欠であることは言うまでもない。ところが、病院の基盤はかくの如く脆弱だ。どうすれば医療機関を維持できるか。情報を共有し、みなで知恵を出し合うしかない。

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