米、「一石四鳥」狙いのシリア攻撃
Japan In-depth / 2017年4月9日 18時53分
信田智人(国際大学国際関係学科教授)
【まとめ】
・米大統領の国内政策に関する権限は限定的。
・自由に行使出来るのが「軍事政策」。
・対中国・北朝鮮への圧力になった。
■大統領権限が限定的なアメリカ
20年前、「ワグ・ザ・ドッグ」というロバート・デ・ニーロやダスティン・ホフマンといった名優が共演した映画があった。スキャンダルを抱えたまま再選に臨む大統領に、戦争を起こすことで国民の関心をそらせるという内容のものだ。
その後、クリントン大統領がセックススキャンダルに悩まされ、コソボ空爆を実行したため、現実を予見した映画として話題になった。今回のトランプ政権によるシリア空爆で、この映画を思い出したのは私だけではないだろう。
大統領就任後の三週間、連日のようにメディアの前で20以上もの大統領令に署名するパフォーマンスを見せ、選挙公約を実現するにあたってリーダーシップを発揮する様子を見せた。しかし、三権分立が最も際立った米国の政治システムでは、大統領が紙切れ一枚で政策を実現できるようなものではない。案の定、中東七カ国の国民の入国を一時凍結するという大統領令は司法府から差し止められた。またオバマ政権でつくられた健康保険制度、オバマケアを廃止に追い込む法案は議会で廃案となった。
そもそも日本人の多くは勘違いしているが、米国の大統領の国内政策に関する権限は極めて限定的である。まず、米国には世界最強の立法府である議会が予算作成権限を握っている。議会が承認しなければ、予算措置の必要な政策は実現しない。内閣法案提出権のある日本と違って、米国の大統領には議会に法案を提出することさえできない。
行政府をコントロールすることさえ難しい。トルーマン大統領が後任の軍人出身のアイゼンハワーについて向けた有名な言葉に「これをしろ、あれをしろ。でも何も起こらない。可哀想なアイク、陸軍とは違うんだ」というのがある。ビジネス界にしか身を置いたことのないトランプには、巨大官僚組織の運営の仕方が理解できないのに違いない。
■米大統領最大の権限「軍事政策」
国内政策においては制約の多い米国の大統領が、最も自由に権限を行使できるのが軍事政策である。米軍の「最高指揮官」の権限を使い、武力行使を行うことについて、議会のできることは限られている。大統領の戦争権限を制約しようと70年代に「戦争権限決議」が立法化されたが、この法律が行使されたことはない。
-
- 1
- 2
この記事に関連するニュース
-
アングル:米ロが中距離兵器を再配備、中国巻き込み軍拡競争複雑化
ロイター / 2024年7月20日 7時59分
-
トランプ氏が痛烈批判 バイデン氏の「弱腰」外交に根強い懸念 中朝露などの増長招いた
産経ニュース / 2024年7月14日 12時0分
-
イランの核武装への兆候か? イスラエルとの初交戦と大統領墜落死が示すもの
ニューズウィーク日本版 / 2024年6月27日 12時40分
-
「トランプ陣営の世界戦略がさらに明るみに」その3 中国こそが最大の脅威
Japan In-depth / 2024年6月27日 11時0分
-
社説:ロ朝の新条約 国際秩序を脅かす軍事連携
京都新聞 / 2024年6月25日 16時0分
ランキング
-
1米国初の女性・アジア系大統領を目指すハリス氏、手腕には厳しい評価も
産経ニュース / 2024年7月22日 19時11分
-
2バイデン氏の撤退決断、米主要紙が評価 「勇気ある選択」「米国の最良の利益」
産経ニュース / 2024年7月22日 19時34分
-
3バングラ学生デモの逮捕者500人超に 死者163人に 警察発表
AFPBB News / 2024年7月22日 20時38分
-
4国際協調路線のバイデン外交は「限界」露呈…ウクライナ侵略・ガザ紛争終結メドつけられず、米国内の分断も深まる
読売新聞 / 2024年7月23日 7時10分
-
5南シナ海で「屈服せず」 比大統領、緊張緩和模索も
共同通信 / 2024年7月22日 22時59分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください