北朝鮮「サリン弾」効果なし
Japan In-depth / 2017年4月18日 1時57分
文谷数重(軍事専門誌ライター)
【まとめ】
・安倍首相、北朝鮮の「サリン弾」保有に言及。
・北朝鮮が使用しない理由 ①「威力小さい」
・②「人道への罪」から大規模報復招く。
■北朝鮮、「サリン弾」保有の可能性
弾道弾による化学兵器攻撃の脅威はどの程度だろうか?
北朝鮮情勢が緊迫している。米国は北に圧力を掛けており、北朝鮮も反発している。トランプ政権がシリアに攻撃を実施したことから、無根拠な噂だが月末に米軍が攻撃するといった話も出ている。
その中で、北朝鮮による日本への化学兵器攻撃の話題も上がっている。これは国会での質疑でなされたものだ。首相は「サリンを[弾道弾の]弾頭に付けて、この着弾させる能力については、この北朝鮮は既に保有している可能性がある」(ママ)と述べている。
だが、弾道弾への化学兵器搭載は考えがたい。なぜなら化学兵器と弾道弾との相性は悪いためだ。そもそも化学兵器は威力不完全であり、効果的な散布が難しく、戦略兵器としての用途に向かない。
不安を煽る効果は高いが、攻撃側からすれば期待できる実害は小さい。その点でまず使うものではない。
■威力が小さい
北朝鮮は化学弾頭攻撃を使用しない。
なぜなら都市攻撃には威力不十分だからだ。そもそも化学兵器は屋外での威力は小さい。散布しても雨が降っていれば洗い流され、日中であれば上昇気流で上空に拡散して威力を失い、あるいは土中に染み込んで不活性化する。その上、今日の高気密建築物には通用しない。窓を締めて空調を止めていれば一般住宅でも耐久されてしまうからだ。
ちなみに、これは戦前から判明していたことだ。毒ガス空襲が警戒されていたが、スキマだらけの和風家屋でも窓や障子を締め切り、奥の部屋にいれば耐えられることが判明。紙で目張りをすればほぼ大丈夫といった結論に達している。
さらに人口希薄な郊外や農村部に打ち込んでも効果は全く見込めない。屋外に人がいなければ効果も見込めないからだ。
この点で毒ガス攻撃はその印象ほど威力はない。
■散布が難しい
また、弾道弾では化学剤の効果的な散布も難しい。この点でも搭載は考え難い。炸裂時の散布にムラが多く蒸散や上昇気流による拡散損が多く、効果的ではないためだ。
化学兵器を効率的に使うには、目標地域に対して低めに、平均的に散布しなければならない。一部だけ高密度に散布しても無駄、上空に拡散させても無駄だからだ。本来なら地上風上からの直接散布や航空機からのガス雨下が望ましい。せめては小口径砲弾・爆弾を広くバラまく形となる。
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