揺れるムスリム対策
Japan In-depth / 2017年4月20日 18時0分
安岡美佳(コペンハーゲンIT大学 研究員)
千尋ホッジス(コペンハーゲン北欧研究所 Japanordic.com 所属)
トランプ米大統領のイスラム教徒国からのアメリカ入国制限が物議を醸している最中、ヨーロッパでも3月19日にEUの司法裁判所が宗教的、政治的、あるいは哲学上の意図を持つ服装、特にムスリム女性のヘッドスカーフを職場で着用禁止にすることは法律上違法ではないとの決定を下した。つまり、事業主は従業員に対してなるべくニュートラルな服装を職場内で求めることができる、という決定である。
デンマークは一般的に「移民」に対してたいへん友好的であり、小国とはいえできる範囲でこれまでもかなりの移民を受け入れてきている。2015年の夏に起きた100万人以上の中東やアフリカからの特にシリア難民のヨーロッパへの大移動は記憶に新しいし、今現在も2年前より減ったとはいえ多くの難民申請がデンマークでも行われている。社会福祉制度が整ったドイツや北欧諸国を難民たちが最終目的地として目指すことは理解できるし、人間的な感情論で言えば多くの人々ができる限り受け入れたい、という気持ちでいるのはまちがいないと思う。ただ、ムスリムの移民たちがヨーロッパ各地で根を下ろし暮らしていくにあたって、受け入れ国の人々が望むことは「言語だけでなく、文化的にも早く打ち解けて、ホスト国である我が国の暮らし方を受け入れてほしい」ということのようだ。そしてこの「同化政策」にはムスリム女性たちのヨーロッパ文化の受け入れと意識改革が不可欠だと思われている。またなかなか進まないことに対しては少なからず「イライラ感」を持っているというのが偽りのないヨーロッパ人の「本音」でもあるようだ。
ムスリム移民の女性たちはほとんど仕事や資格を持たず、家の中で家族や子供達の世話をし過ごしていることが多い。それに比べて北欧の女性たちはほとんどが仕事を持ち、ボランティア活動もしながら家庭があり子育ても並行してやっている。社会保障は国籍にかかわらず惜しみなく与えられ、この高福祉はほとんどの国民が働いて税金を国に収めることで支えられているのである。この見地から去年物議を醸したジュエリーロー(Jewelry Law)注釈1参照 が施行されることになったのである。デンマーク人ばかりでなくスカンジナビア全土で一般的に移民の宗教や政治的立場を批判することはあまり耳にしないが、個人個人に彼らの私見として尋ねると、「ムスリムの女性たちが外に出て働き、この国に溶け込み、精神的、社会的にも自立することを望んでいる」という人たちがいかに多いかがわかってくる。そして、ムスリム女性たちに新しい国でのアイデンティティーを持ち、価値観を共有し、ひいては彼女たちが今後生み育てていくであろう新しい「デンマーク人の子供達」の手本になってほしいと結ぶのである。
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