朝鮮戦争は「誤算の連鎖」 金王朝解体新書 その3
Japan In-depth / 2017年5月5日 14時0分
「ソ連がでっち上げた〈共和国〉など、簡単に制圧できる」
などと大言壮語する向きが多かったと伝えられている。
対する北朝鮮の側は、たしかに人口では韓国に劣るが、もともと朝鮮半島においては、鉱工業が北部に集中し、南部は農業地帯であったという事情があって、発電量や工業生産高の面では、韓国を圧倒していた。加えて、南進統一を支持したソ連から、200輌近い戦車をはじめ、大量の近代兵器を供与されていたのである。
さらには、朝鮮族の中国人兵士が、3万人以上も北朝鮮軍に参加した。
彼らの多くは、日本軍と国民党軍を相手の実戦で鍛え上げられており、ソ連の戦車学校で教育を受けた者までいたと伝えられるほどスキルも高かった。
■スターリンの目論見
こうした軍事的優位に加え、1949年に中国革命が成功した(同年10月1日、毛沢東が北京の天安門上において、中華人民共和国成立を宣言)の余勢を駆って、一挙に東アジアを共産化できるというのが、スターリンの目論見であったと衆目が一致している。
その上さらに、韓国内の政治不安という要素もあった。独立直後の政治的混乱は、南北ともに見られたのだが、北朝鮮においては、当初からソ連の信任を得ていたキム・イルソンが、いち早く朝鮮労働党を旗揚げして権力争いを制し、独裁体制を確立していた。
そして、地主階級はじめ富裕層の財産を没収して農民に分配し、権力基盤を固めたのだ。すでに述べたように、産業やインフラでも韓国を圧倒しており、その生産力を背景に、
「格差も貧困もない〈地上の楽園〉が実現しつつある」
などと、さかんに宣伝した。
一方の韓国だが、イ・スンマン政権は、前述のような事情で北朝鮮において迫害され、韓国領内に逃れてきた旧富裕層を、優先的に公職に就けるなど優遇した。高等教育を受けた者が多いから、という理由づけは一応あったのだが、庶民の不満は高まり、共産主義者の宣伝とも相まって、ついには反政府デモが頻発し、暴動に発展する事態が頻発するようになったのである。
当時キム・イルソンのもとには「南朝鮮における革命的情勢」についての報告が連日届いていたことは疑う余地がない。やがて彼と、彼の後ろ盾である毛沢東やスターリンは、
「人民軍(=北朝鮮軍)が南進し、3日でソウルを制圧したならば、たちどころに20万人の共産主義者が武装蜂起し、統一が達成できる」
と信じ込むようになった。そして事実、38度線を越えて韓国になだれ込んだ北朝鮮軍は、3日後にはソウルを占領する。
■独裁者らの判断の誤り
しかし、共産主義者の武装蜂起などおきなかった。イ・スンマン首相ら韓国政府首脳がソウルから脱出する際に、多数の市民を見捨てて橋を爆破するという醜態を演じたにも関わらず、である。
私見ながら国家でも企業でも、独裁的な権力を振るうような人には、自分にとって都合のよい情報しか信じない、という傾向があるように思う。当時のキム・イルソンやスターリンもそうであったし、かつてはアドルフ・ヒトラーが、スターリンの恐怖政治によってソ連国民の団結など失われており、
「ドアを蹴破るだけでよい」
と信じてソ連に侵攻した。結果は、ご承知の通りである。
独ソ戦にせよ朝鮮戦争にせよ、その犠牲の規模たるや、独裁者の判断の誤りで済まされる話ではない。
こうした歴史から、現在の我々が学ぶべき事柄は、まだまだ数多く残されている。
(本記事は、その1、その2の続き。その4に続く)
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