「一帯一路」協力は日本の安全保障の利益
Japan In-depth / 2017年5月17日 12時26分
うまく中露衝突となれば中国は対日関係の調整にも転ずるかもしれない。これには60年代の中ソ対立、伊犁での伊塔事件や黒竜江での珍宝島事件により日中関係が一挙好転した前例がある。中国は対日強硬態度から賠償抜きの平和条約まで一挙に軟化したのだ。
■天然ガスを買う
具体的にはどうすればよいか?
日本が中国から天然ガスを買うことだ。それで政治的な力が強いエネルギー関連企業を強気にし、今以上の中央アジア進出を促進させられる。
中国は中央アジア開発として大量の天然ガスの輸入を進めている。「西気東輸」といわれる政策であり、それまでロシアにタダ同然で買い叩かれていたトルクメニスタンの天然ガスを中亜気管道−西気東輸パイプラインで運んでいる。
そのガスはダブつく見込みにある。国境のコルガスから上海、広州までを連結する西気東輸パイプラインは5線計画され現在は3線まで完成している。だが最後の4・5線は必要性に疑問を抱かれていたものだ。さらに需要家向けの価格はやや厳しいといった話もある。中国の省エネ技術進歩や将来の産業構造変化からすれば、天然ガスは余る。
日本はそれを買い取るだけでよい。ガスの引取りと価格支払いにより中国の天然ガス開発を支えれば、中央アジアへの経済進出を頓挫させず順調に進めるだろう。ガスとしてはやや高いかもしれないが、それで中央アジアを泥沼化できる可能性があれば悪い話ではない。
■鉄道に投資する
また鉄道への投資でもよい。改軌によりロシアを刺激できるからだ。
一帯開発には中国・欧州間の鉄道網整備も含まれている。これはチャイナ・ランドブリッジと呼ばれる鉄道輸送である。港湾までの距離が遠い地域では常用されており、欧州向け高速輸送では日韓台を含めて活用されている。
このチャイナ・ランド・ブリッジには一つの欠点がある。それは中央アジアでのロシア・ゲージ(1530mm)区間出入に際して貨物積替が必要とされる点だ。これは相当のコスト増加だ。
日本は「それを改善するため」として改軌に投資してもよい。既存線路を中国・欧州の標準軌(1435mm)に改めることで、ロシア政府やロシア人に影響圏喪失を印象付けられるだろう。
これはどうやってもよい。AIIBに入りその内側から主張しても良いし、中国の事業に円借款や民間投資の政府保証でくっつく形でもよい。円借款であれば中国は面子にかけても返済する。中国の対日支払いは今まで滞っていない。
あるいは、表面上は日本単独の中央アジア経済協力としてもよい。日本が推奨し投資を表明すれば中央アジア各国や中国はそれなりに後押しされる。それによりロシアの不興への警戒感を削ぐ程度はできる。
※「一帯一路」への投資による中国脅威の転嫁に関しては筆者記事を参照して頂けると幸いである。
文谷数重「脅威の矛先を海洋から内陸へ」『軍事研究』(ジャパン・ミリタリー・レビュー,2016.12)pp.96-107.
トップ画像:Hong Kong Qatar Locator.png by Xxjkingdom
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