テロ相次ぐインドネシア 高まる社会不安
Japan In-depth / 2017年5月26日 11時3分
これに加えて、同知事を糾弾していたイスラム教急進組織「イスラム擁護戦線(FPI)」のハビブ・リジック・シハブ代表が国家警察から「国家指導者侮辱」「ポルノ画像受信」などの容疑で出頭を求められながらも、聖地巡礼を理由に海外に留まっていることに関してイスラム穏健派からの反発と捜査を違法とする急進派によるイスラム教内部の対立も浮き彫りになっていた。
インドネシアは世界第4位の人口、2億5500万人を擁し、その約88%がイスラム教徒という世界最大のイスラム教徒が住む国である。だが、憲法などでイスラム教以外にキリスト教、仏教、ヒンズー教など信仰の自由が認められ、「多様性の中の統一」を国是として掲げている。
それだけにイスラム急進派が掲げる「イスラム至上主義」は「国家と国民の分裂を招きかねない」として、アホック知事への判決への反発が新たな分裂を生みかねない状況になっていた。
■「多様性の中の統一」に危機感
こうした事態にジョコ・ウィドド大統領は5月16日に国家警察長官、国軍司令官を呼び「国家分裂につながり、差別を助長するようなヘイトスピーチ、言論には厳しく対処するよう」指示を出した。
大統領は「言論の自由、宗教自由は最大限許容するが、それもインドネシア社会の法と秩序に敬意を払うことが前提であり、社会不安を扇動する言論は自由ではない」と言明、国民に今こそ「多様性の中の統一」や「宗教的寛容」といった価値観の共有を求めた。
実刑判決直後に「判決を不服」として直ちに控訴していたアホック氏も5月23日に妻が涙ながらの会見で「控訴取り下げ」を表明する事態になった。妻によると同氏を支持する国民の運動、デモが全国に拡大していることで「交通渋滞、経済活動の停滞と国民の生活に支障がでている」として「国のためならば自分は全てを許し、受け入れる」と控訴断念の理由を明らかにした。検察側も控訴しているためアホック氏の刑が確定するかは未定だが、国家分裂の危機感を大統領から州知事までが深刻に懸念していることを内外に強く印象付けた。
前述のようにインドネシアは27日からイスラム教徒の重要な宗教的行事である「プアサ(断食)」を迎える。日の出から日没までイスラム教徒は一切の飲食を絶ち、イスラム教徒としての敬虔な宗教心を再確認する。この期間中には例年、イスラム急進派が営業中の風俗店やカラオケ店を「宗教的に問題がある」と襲撃して営業停止に追い込む事案も発生しており、今年も警戒感が高まっていた。
そんな中で発生した今回の自爆テロ事件だけにインドネシア国民はテロの背景が詳細にならない中、不安を抱えながら断食を迎えようとしている。
【追記】2017年5月26日13:00
5月25日、ISが系列のメディアアマク通信を通じて「インドネシア警察のジャカルタで集まりを狙って攻撃を実施したのはISの兵士だ」との犯行声明を出した。
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