核兵器禁止条約報道の欺瞞
Japan In-depth / 2017年7月9日 23時0分
この条約はその名のとおり核兵器の保有も実験も導入も、すべて禁止している。だが強制的な力はない。核保有国はみな自国の防衛や安全のためにこそ、あるいは同盟国の防衛のためにこそ、核兵器をあえて保有するのであり、その放棄や破棄は主権国家として絶対にできない、という立場を明らかにした。核保有国の政府は次のような声明を出していた。
「この条約は国際的な安全保障環境の現実を無視しており、一つの核兵器の削減にもつながらない」
(アメリカ)
「わが国の安全保障政策は核抑止に基づいており、その核の放棄は弱さを認めることであり、この条約の署名も批准もすることはできない」
(フランス)
「この条約ができてもわが国が核兵器について負う法的な義務にはなんの変化も起きない。いまの国際情勢下でこの条約は認められない」
(イギリス)
核保有国ではないが、日本も政府代表たちが明確にこの条約への反対を述べていた。
岸田文雄外相や別所浩郎国連大使ら政府当局者たちが
「アメリカの核のカサに依存する日本が核兵器全面否定のこの条約には賛成できない」
「北朝鮮がこんな状況なのに核保有国の存在を認めない条約には絶対に反対だ」
と語っていた。
周知のように日本の安全保障は同盟国アメリカの核拡大抑止力に全面的に依存してきた。日本が万が一にも核兵器による攻撃や威嚇を受けた場合、アメリカが核での報復を誓っているため、そうした攻撃をかけようとする側は自国への核報復を恐れて、自制するというメカニズムが核拡大抑止、つまり核のカサである。
アメリカが自国の防衛のためだけでなく 同盟国のためにも最悪の場合の核兵器使用をするという政策は自国の核抑止の同盟国への拡大として「拡大」抑止と呼ばれるわけだ。
日本への敵性をときにむき出しにする北朝鮮や中国が実際に日本への核攻撃を考えれば、当然、アメリカからの核反撃を覚悟しなければならないことになる。そんなときに日本としてはアメリカの核兵器の存在や効用を全面否定する今回の条約に賛成するわけにはいかないのは自明だといえよう。核兵器が平和や安全を守るという皮肉な実効はアメリカとソ連がたがいに多数の核兵器を配備して対立した東西冷戦時代にも実証されたのである。
だがそれでも朝日新聞は核兵器禁止条約の採択を「国連総立ち 拍手・涙」という筆致で歓迎していた。この条約を支持した日本の被爆者たちの「やっとここまでこぎ着けた」というようなコメントを大きく伝えていた。この条約がいかにも実際の核兵器の禁止につながるように思わせる報道だとすれば、真に核兵器を忌避する人たちへの偽善や冒涜だともいえるのではないだろうか。
トップ画像:広島市原爆ドーム ©UNITED NATIONS 2017
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