金正恩の誤算“朝鮮戦争の再勃発”
Japan In-depth / 2017年9月5日 19時0分
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー2017#36(2017年9月4-10日)
【まとめ】
・金正恩の空威張りは追い詰められた独裁者の悲壮感の裏返し。
・金正恩の誤算による朝鮮戦争の再勃発が最大の懸念。
・北朝鮮軍の「士気」次第で第二次朝鮮戦争は凄惨な戦場になりうる。
〇 北朝鮮情勢
9月3日昼過ぎ、北朝鮮が第6回目の核実験を「強行」した。広島出張中だったこともあり、これまで以上に強い怒りを覚えた。しかし、核実験の実施自体は驚くに当たらない。先代の金正日時代は2006、09、13、16年とほぼ3年おきの実施だったが、正恩時代では既に3回目。明らかに計画は加速されている。
金正恩は一体何を焦っているのだろう。経済制裁が効いてDPRK(朝鮮民主主義人民共和国)の将来を悲観視するからこそ核開発を急ぐのか。それとも、核弾頭付きICBMの完成が間近となったので、加速させているだけなのか。筆者は正恩の空威張りに、徐々に追い詰められた独裁者の悲壮感の裏返しを見る。
これまで各当事者は合理的な判断を繰り返してきた。北朝鮮は核兵器保有国という「力の立場」からの米国との和平を望み、中国は緩衝国家DPRKを見捨てられず、韓国は半島が焦土となる戦争に踏み切れず、同じく軍事行動に踏み切れない米国は中国に対する経済制裁を通じて北朝鮮に圧力を掛けている。
筆者はこうした状況を「合成の誤謬」と呼ぶ。米国は今後も対話より圧力を重視していくだろう。トランプを囲む将軍たちは暴走などしない。軍人は戦争に最も慎重だからだ。最大の懸念は北朝鮮、というより正恩自身の「誤算」による朝鮮戦争の再勃発だろう。カギとなるのは北朝鮮軍の士気である。
誤解を恐れずに言おう。このまま北朝鮮包囲網が狭まり、原油供給まで制裁の対象となれば、状況は1940年代のABCD包囲網に似てくる。その時、北朝鮮軍は「国体護持」のため「最後まで戦う」のか、それとも、2003年のイラク軍のように、独裁者のために死ぬくらいなら、脱走と敵前逃亡を繰り返すのか。
▲写真 戦火のソウル市内で瓦礫の中を物色する市民 1950年11月1日 Photo by Capt. F. L. Scheiber. (U.S. Army)
後者であれば、米国による先制攻撃は成功し、戦意を失った北朝鮮軍は米軍の敵ではないだろう。だが、もし前者であれば、第二次朝鮮戦争は再び凄惨な戦場となる。北朝鮮の誤算は米国の「レッドライン」の読み違いで起きるが、米側に誤算が生ずるとすれば、それは北朝鮮軍の士気の読み違いかもしれない。
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