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オウンゴール続ける日本政府の「歴史戦」

Japan In-depth / 2018年3月10日 11時0分

2015年3月26日、米紙ワシントン・ポストに安倍首相のインタビューが載った。その中に、慰安婦について、「人身売買の犠牲となって筆舌に尽くしがたい思いをした方々のことを思うと、今も胸が痛む」とした首相の発言が含まれている。「人身売買」はhuman traffickingと英訳されている。この種のインタビュー記事は、掲載前に、官邸と外務省の担当者がゲラをチェックするはずで、この場合も例外ではないだろう。「強制」に当たる言葉が排されたのは評価できるが、なお用語の選択に疑問がある。

韓国の康京和(カン・ギョンファ)外相は、「日本が自ら国際的かつ普遍的な基準に基づき、真実をありのまま認める」、この言葉で日本批判を繰り返している。human traffickingには、国連による定義、すなわち「国際的かつ普遍的な基準」がある。

▲写真 康京和外相 出典 クリエイティブコモンズ

2000年11月15日、国連総会で採択された「国際組織犯罪防止条約を補足する議定書」は、組織犯罪たる「人身取引」(human trafficking の外務省訳)を「搾取の目的で、暴力その他の形態の強制力による脅迫もしくはその行使、誘拐、詐欺、(中略)の手段を用いて人を獲得し、輸送し、引き渡し、蔵匿し、または収受することをいう」と定義している。

さらに、対象が「児童」(18歳未満)の場合には、「ここに規定するいずれの手段が用いられない場合であっても、人身取引とみなされる」とある。

逆に言えば、強制や誘拐、詐欺などを伴わない18歳以上の婦女子による売春は、国連の定義でいう「人身取引」には当たらない(特に欧州には売春を合法化している国があり、売春自体を「人身取引」とする定義は採用し得なかった)。すなわち、旧日本軍の慰安所利用は、現在の「国際的かつ普遍的な基準」に照らしても国際組織犯罪たるhuman traffickingには該当しないのである。

もちろん慰安婦の中に、犯罪的な人身売買の犠牲者が含まれていたことは間違いない。悪徳業者の排除を日本軍が指示していることからもそれは窺える。しかし、慰安婦全体を人身売買の犠牲者と規定するならば、旧日本軍に対する重大な誤解を招くことになる。人身売買(ないし取引)という言葉は、国際場裡で安易に用いてはならない。

さらに明確なオウンゴールを近年外務省はおかしている。2015年に「明治産業革命遺産」がユネスコの世界遺産に登録された際、韓国のクレームに屈して、外務省は、軍艦島などで朝鮮人が「労働を強制された(forced to work)」という事実に反する記述を書き加えた。この件で調整に当たった加藤康子内閣官房参与は、韓国が反対しても票は足りる、遺産の名誉を傷つけるような譲歩はすべきでないと主張したが、外務省に押し切られたという。

▲写真  軍艦島(端島)の全景 Photo by Hisagi

「労働を強制された」と「強制労働(forced labor)」は違う、後者(国連の定義で「人道への罪」に当たる)は認めていないというのが外務省の理屈だが、国際社会一般には通用しない。

現に冒頭の文在寅演説を伝えたワシントン・ポスト(電子版)3月1日付の記事を見ると、慰安婦の説明として「性的サービスを強制された(forced to)」と「性奴隷(sex slave)」を同趣旨の言葉として併用している。forced toを認めた時点で負けなのである。

トップ画像:「3・1独立運動」式典に出席した文在寅大統領(2018年3月1日)出典 Republic of Korea

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