法さえ守れば問題ない イスラム脅威論の虚構 その7
Japan In-depth / 2018年4月8日 0時30分
恥を記すが、私もこの連載のために色々と調べて見るまでは、ラマダーンというのはかなり厳格に守られているのかと思っていた。エジプト生まれで、初のアフリカ大陸出身、そして初のムスリム力士として注目されていた大砂嵐関が、本場所とラマダーンが重なることがあって、「なんとか頑張ります(頑張って断食します)」とコメントしたのを覚えていたのも、理由のひとつである。
▲写真 大砂嵐元大相撲力士 出典 江戸村のとくぞう
相撲取りが断食とはただ事ではない。ラマダーンとはそこまで厳しい戒律なのかと、なんとなく思い込んでしまっていたのだ。ちなみに、ラマダーンはヒジュラ暦の九月であると述べたが、ヒジュラ暦は月の満ち欠けに基づいた太陰暦であるため、1年がおおむね354日となり、毎年少しずつ太陽暦とずれる。このため、ラマダーンも夏になったり冬になったりする。日本の旧暦のように、閏月を置いて太陽暦との整合性を持たせることもしていないのだ。つまりは季節を反映しない暦なので、農業や予算に用いるにはいたって不便である。
そこで現在のイスラム圏では、西暦を併用したり、ヒジュラの年=西暦622年を起源とする独自の太陽暦(イラン歴と呼ばれることが多い)を用いたりしている。
話を戻して大砂嵐関だが、ラマダーンにはだいぶ苦労した様子であったが、強烈な突き押しを武器に幕内通算112勝(100敗43休)、金星3という成績をあげ、西前頭筆頭まで出世し、国際的にも注目されていた。ところが、本年一月に無免許運転で交通事故を起こし、けが人などはなかったものの、「妻が運転していた」などと虚偽の供述をしたことが発覚。相撲協会から引退勧告処分を受け、土俵を去ることとなった。自業自得とは言え、いささかもったいないことをしたと思う。
イスラムの戒律は厳格に守るのに、日本の道路交通法を無視するとは……という話だが、実はこれこそ、イスラム脅威論の虚構、という本シリーズのテーマを端的に表した実例ではあるまいか。
すでに見たとおりラマダーンは、善行として推奨されているだけで、食べたら地獄に落ちるとか、無茶なことを言って押しつけられた戒律ではない。まして、信者でない者にまで断食を強要することなどない。厳格に戒律を守る人たちでも、それぞれの国の法規をきちんと守るのであれば、どこに移民しようが、その国に害をなすことはないのである。
念のため述べておくと、私は、内戦が続く中近東からの難民の受け入れには、今以上に慎重になるべきだと考えている。理由は簡単で、ISなどのテロリストが難民を偽装して入国を試みた場合、水際で阻止するのは難しいからだ。
トランプ大統領がイスラム圏の人々に対する入国制限を打ち出した時は、世界が非難したし、私も非難した。これはどういうことかと言うと、すでに米国内に生活基盤を持っている人までが規制の対象となるのでは、明らかに米国内の人権問題であるからだ。
したがって私も、イスラム圏からの難民や移民に対しては、慎重な身元調査が必要ではあるとは考えるが、受け入れるな、とは一度も言っていない。「悪いのはテロリズムであって、イスラムではない」という常識を失いたくはないものである。
トップ画像:ラマダーンの終わりを祝うムスリムの人々 出典 Ingmar Zahorsky
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