深海底レアアースはペイしない
Japan In-depth / 2018年4月19日 14時4分
一度は商業化しても価格暴落で採算が合わなくなる。そのような構造なのである。
■ 技術開発に成功するかも厳しい
また技術開発も難しい。
採掘そのものは可能だ。海底6000mでも泥をジエット水流で混濁させてチューブから抜くことはおそらくできる。多少減圧すれば混濁水は管路を容易に上る。海底は高圧だからだ。混濁状態も配管中途に適当なジェット噴射機構をつければ維持できる。
だが、それは固定式に造る場合である。静止した海面から海底方向に6000mのチューブあるいはダクトを垂らして安定させた状況であればできる。
▲写真 採掘システム 出典 国立開発研究法人海洋研究開発機構
しかし、それでは間に合わない。これは海底にある泥を吸い尽くしたらどうするか? 海底での採掘半径内に泥がなくなったらどうするか? を考えればよい。
移動が必要となるが容易ではない。チューブ揚収と再設置をした場合、採掘している時間より揚収再設置のほうが時間がかかることとなりかねない。吊ったままの移動も難しい。全長200mの船で長さ6000mの極細垂直チューブを移動させるのだ。配管の挙動は読めない。
これも事業化を困難とする。一度、海底にパイプを刺せば年単位で採掘できる海底油田やガス田とは異なるのである。
なお、実用新案もコストを要する。移動のため配管100m毎に3軸式の推進ポッドをつけるといった工夫が必要となるかもしれない。だが、現状ではそのような運用例はないし、その開発・適用コストはおそらく相当に高い。推進機や電線の重さからチューブ・システムを中性浮力で造るといった工夫も必要となるだろう
■ 近傍に拠点はない
最後に挙げるのは距離の問題だ。レアアース堆積地に目されるのは小笠原以遠である。南鳥島や沖ノ鳥島のEEZである。
▲写真 日本の領海等概念図 出典 海上保安庁
そこには拠点がない。付近の島は何も期待できない。
沖ノ鳥島は実態は岩礁である。日本は島といっているがそれだけのことだ。何の補給拠点ともならない。
▲写真 沖ノ鳥島航空写真 出典 国土交通省
南鳥島も港湾はない。しかも補給の限界である。航空基地を持つ海自も隊員数も絞っている。水不足となれば人減らしで硫黄島に隊員を後退させる。
硫黄島も海空自衛隊だけの島だ。やはり港湾はなく補給機能と医療設備も最低限しかない。
つまりは、採掘母船は近傍の支援を受けられない。燃料や水、食料の輸送コストはさほどではない。だが、作業員交代の手間や賃金割増は費用は馬鹿にならない。休暇や急患のたびにヘリで南鳥島まで長距離移動し、硫黄島経由のチャーター便で送り迎えしなければならない。
そのような事業が採算にあうか。それも問題となる。
■ メタンハイドレートと同じ
商業化の出目はないのである。
だが、その技術開発に政府は金を出すといい、マスコミもそれを好感する内容の記事を書く。
その理由は何か?
日本人の資源飢餓感が反映したものだ。日本はエネルギー・鉱業資源の確保に不安感を抱いている。戦争は資源が手に入らなかったため負けた。オイルショックでも社会的混乱がおきた。だから資源を確保しなければならない。そう考えているからだ。
そこに問題点の指摘はない。経済性についての検討や批判的報道はない。あるのは「日本周辺にこれだけある」や「エネルギー大国になれる」といった夢物語だけだ。
トップ画像:レアアース元素 出典 photo by Terence Wright
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