蔓延するトランプ誤認症候群
Japan In-depth / 2018年4月25日 11時0分
大統領選挙戦中に最も正確な世論調査結果を出していたラスムセン社はこの4月下旬にはトランプ支持率50%という数字を発表した。オバマ前大統領の同時期を上回る支持率だった。だが日本ではそんな高い数字はまず報じられない。
ワシントン・ポストのホワイトハウス担当マイケル・シェアラー記者は最近、「トランプ大統領はいまこそ最も自信を深め、本来、自分の当選を招いた公約の実施に一段と集中してきた」と報じた。一方、日本側の主要メディアでは「トランプ大統領は苦境に陥った」という基調である。アメリカの現実とは明らかに異なるのだ。
日本側での誤認はトランプ氏の支持層の動きに注意を向けず、もっぱら反トランプのメディアや識者の主張だけをみることから起きるようだ。トランプ大統領の人格や政策を非難するのは自由である。だがその大統領が明日にでも倒れるとしてきた断定はあまりに無責任だといえよう。辞任とか弾劾、崩壊という日本側での予測はことごとく外れてきたのだ。この傾向はトランプ誤認症候群とでも呼べるだろう。
そんな日本のトランプ誤認症候群の最近の顕著な症例は大統領の政策をすべて「中間選挙のため」と断じる傾向である。中国製品への高関税も日本への貿易不均衡是正も、今年11月の連邦議会選挙で共和党議員を勝たせるための人気取り策にすぎないというのだ。
この「解説」にはトランプ大統領の政策はしょせん場当たりで確固たる基盤がない、という示唆がある。トランプ大統領が本来、考えていなかった政策や主張を中間選挙のために突然、持ち出してきたとする暗示さえある。
ところが現実には中国の貿易不公正慣行や日本の対米貿易黒字への非難はトランプ氏の3年前の選挙戦冒頭からの主要公約なのである。しかも保護貿易主義的な措置は議会の共和党主流派からは批判される。対中高関税は中国の報復で被害を受けるアメリカ農業界からも非難される。いずれも中間選挙の票集めに直結するという因果関係はないのである。
そもそもアメリカ大統領にとって議会の中間選挙は致命的な重要性を持たない。議会の選挙結果で政権が変わる日本とは構造が違う。大統領に致命的なのはあくまで自分自身の大統領選挙である。
もちろんどの大統領にとっても中間選挙が無意味なはずはない。だが中間選挙の結果がたとえ現職大統領を支える与党の大敗であっても、大統領の地位が崩れるわけではない。せいぜい議会運営が難しくなるだけだ。
しかも歴代大統領の多くが与党の大敗という結果を受け入れてきた。その大敗が大統領自身の選挙での敗北を意味するわけでもないのである。近年ではビル・クリントン、バラク・オバマ両大統領とも任期最初の中間選挙で与党の大敗に直面しながら大統領再選をみごとに果たした。
▲写真 ビル・クリントン前大統領 出典 The White House
▲写真 バラク・オバマ前大統領 出典 Official White House Photo by Pete Souza
だからトランプ大統領の政策はみな中間選挙のためだという日本側の診断は不正確かつ皮相なのである。
トップ画像:トランプ大統領就とペンス副大統領 2017年8月22日 出典 The White House(Official White House Photo by Andrea Hanks)
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