土俵の女人禁制問題と明治150周年
Japan In-depth / 2018年5月1日 23時0分
歴史的に関係が深かった神事との関りが強化されたのをはじめ、相撲界は工夫や努力を重ね興行的要素を残しつつ相撲の地位向上を図ったのである。欧風化の行き過ぎへの反発や相撲人気も幸いした。筆者の独断だが、人気や共感が後押ししなければ明治の大変革の中で相撲の淘汰もあり得たと思う。
かくて明治17年、天覧相撲が行われ、同42年には国技館が出来、相撲は晴れて国技となった。つまり「女人禁制」は何百年の伝統や古来の伝統でなく、明治維新と近代国家建設に繋がる伝統と言ってよいのである。
日本の相撲は本来、むしろ女性と縁が深い。相撲が史書に初登場するのは「日本書紀」で采女による女相撲という(論文『相撲における「女人禁制の伝統」について』吉崎祥司、稲野一彦)。私は昔、女相撲のニュースに触れた覚えがあったが、同論文によれば山形県で昭和31年まで行われていた。その意味では女相撲だって日本の伝統と呼べなくもない。厳密には「廃れた伝統」だが。
▲写真 女相撲の絵馬 出典 論文『相撲における「女人禁制の伝統」について』
そう、伝統には連綿と受け継がれて行くものもあれば、廃れてしまうものもある。時代の潮流が大きく影響するが、潮流に乗ればよいというものではないし、潮流を意に介さず伝統に安住するだけではもっと危うい。日々新たなり。それでこそ現代に生きる伝統だ。
▲写真 女相撲の様子 出典 論文『相撲における「女人禁制の伝統」について』
今回の論議の発端となった土俵で倒れた市長に女性が駆け付け、懸命に心臓マッサージを施している時に「女性の方は土俵から降りて下さい」と繰り返し放送したのは、伝統への安住の悪しき見本である。人命軽視云々以前に、突発事態に思慮することなく、土俵=女人禁制と条件反射した。私にはこのような思考停止と独善こそが問題であり、真に憂うべきことのように思える。
折しも今年は明治150年。そして5月場所である。女人禁制問題への対応は、明治維新再考の機会にも出来るのではないだろうか。
トップ画像:石山女相撲総女力士プロマイド 出典 「女大関 若緑」の著者 遠藤泰夫氏HPより
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