ロイター記者実刑に元軍高官異議 スー・チー氏に試練
Japan In-depth / 2018年10月16日 21時28分
しかし、この警部の証言は最終的には証拠として採用されず、証言したモーヤンナイン警部自身も警察に身柄を拘束され、その後の消息は分かっていない。
裁判の過程で判決に至るまでの間に、何らかの政治的関与があったのは間違いないとの見方が現地では有力視されているが、さらなる弾圧を恐れて批判する声はこれまでミャンマー国内ではなかった。
■ 元軍人で元閣僚の発言の影響力
イェ氏はロイター記者2人への実刑判決への国際社会の批判が高まる中、10月初めに「警察官の(逮捕はでっち上げという)証言で何かがおかしいことに誰もが気づいた。この事件は根本からしておかしい。しかし、それを裁判官は正さなかった。判決は不適切であり陰謀に基づくものだったといえる」と断罪して、裁判のやり直し、再審を強く求めたのだった。
イェ氏はテイン・セイン政権時代に報道官や情報相を務めた元陸軍中佐。現在のスー・チー政権とは直接関係はないものの、2記者の裁判に関してスー・チーさんが「多くの人が判決文を読んだかどうかは疑問だ。この裁判は表現の自由とは全く無関係の問題で、国家機密に関する裁判だ」との立場を示しているだけに、スー・チーさんの立場とは異なる見解として大きく注目される結果となっているのだ。
スー・チーさんはさらに「法に従えば控訴することもできるのだ」とも述べている。事実2記者の弁護士は控訴する方向で現在検討を進めているという。
■ スー・チーさんが恐れるもの
民主化運動の旗手として軍政と闘い、返上を求める声が高まっているとはいえ、ノーベル平和賞を受賞したスー・チーさんが民主化や表現の自由、報道の自由といった価値観に理解を示しているとは言えないのがミャンマーの現状である。
こうした状況についてイェ氏は9月に「ラジオ・フリー・アジア」とのインタビューの中で「現在与党の国民民主連盟(NLD)はメディアや人権組織などによる政権批判、特に指導者のスー・チーさんへの批判によるダメージを気にしており、2020年に迎える総選挙への影響に配慮している結果であろう」との見解を示している。
▲写真 ロヒンギャ難民への適切な対応を求める集会。「スー・チー氏からカナダの名誉市民称号をはく奪するよう」求めるプラカードも見られる。(2018年8月25日 カナダ・オタワ)出典:Mike Gifford flicr
ノーベル平和賞受賞者としてスー・チーさんに欧米諸国などから与えられえた「名誉市民」などの取り消しが相次いでいるが、スー・チーさん自身は特に気にしていることはないという。それよりも国会に4分の一の議席を有し、政権への大きな影響力を残しているという国軍勢力、さらに支持母体でもある仏教徒組織などからの有形無形のプレッシャーの中でいかに「民主政権」として国政の舵取りをするかに頭を悩ませているといわれている。
ロイター記者裁判のような「表現の自由」「報道の自由」に関わる問題はまさに頭の痛い、そして覚悟が問われる問題として重くスー・チーさんにのしかかっており、正念場を迎えていることは間違いない。
トップ画像:アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相(2018年9月13日 ベトナム・ハノイ)出典 World Economic Forum on ASEAN 2018(flicr)
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