アメリカで広がる対中強硬論
Japan In-depth / 2018年12月3日 18時0分
▲写真 ロバート・サター氏 出典:The Elliott School of International Affairs (The George Washington University) Homepage
この討論会の組織役、調整役が議会調査局のアジア担当官のサター氏だったのだ。サター氏はハーバード大学で中国研究の博士号を取得し、連邦政府に入って、中国関連部門に勤めることになったのだが、その当時は連邦議会に付属する議会調査局で中国をはじめとする東アジアを担当し、日米関係もその責任範囲だったのだ。
だから私はサター氏の職業活動を少なくとも36年間は知ってきたこととなる。そのサター氏は1982年以降、国務省、中央情報局(CIA),国家情報会議と所属の政府機関を移りながらも、一貫して中国と取り組んできた。その間、とくに中国の対外政策を追って、対中政策の形成にかかわってきた。私は記者としてサター氏の見解を数えきれないほど尋ねて、何度も記事として報じ、参考にもしてきた。
その間、私はもちろんワシントンでアメリカ側の他の中国専門の官僚や学者をも多数、知った。そうしたなかでサター氏のスタンスは常に反中でも親中でもなく、中庸を得て、客観的に思えた。強硬という言葉を連想させることは皆無であり、あえて短い形容で評するならば、「穏健」だった。
サター氏本人は個人の政治信条では民主党寄りだった。リベラル派とも呼べるだろう。中国研究では自らを「穏健派」と特徴づけてきた。
ところがそのロバート・サター氏が2018年11月のいま、これまでの自分の中国認識には誤りがあったと認め、トランプ政権の中国への対決基調の新政策を支持するようになったのである。
「私は長年、中国の動向に対してあえて危険視はしない穏健な認識をとってきました。しかし中国の高度技術の略奪的な取得にみられるようなアメリカの国益を犠牲にする攻撃的行動を過少評価していたことを理解するにいたりました」
いまはジョージワシントン大学の教授としてなお中国研究の第一線にあり、中国とロシアの接近についての官民合同調査の中核にもあるサター氏は自分の錯誤を率直に認めるのだ。一種の転向宣言ともいえるだろう。
「アメリカ側の歴代政権は関与政策の名の下に中国もアメリカも受け入れられるアジアでの国際秩序の構築に努めてきました。だが中国はそれに応じず、逆にアメリカ側の現状保持の政策基盤を切り崩す戦略をあらわにしてきたのです。中国側からの関与を期待した私たち穏健派中国専門家は一様に失望し、考えを変えることを余儀なくされたのです」
▲写真 ペンス米副大統領(右) 出典:Mike Pence Facbook
サター氏は最近、こんなことを述べるようになった。告白とも反省とも、自己批判とも呼べる言辞である。最近の一連の論文や証言でもこんな趣旨を述べるのだ。そしてペンス副大統領の演説に集約されるトランプ政権の対中対決政策は民主党リベラル派の支持をも得ていることを強調し、これから長く険しい米中対立が続くという見通しを明言するのだった。
いまのアメリカの対中観や対中政策の背景を知るうえで、このサター氏の軌跡は有益な指針になるだろう。
トップ画像:米中首脳会談(2017年11月9日 北京) 出典:在北京アメリカ大使館ホームページ
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