ボルトンに関する嘘ニュース
Japan In-depth / 2019年5月17日 18時0分
このホワイトハウスの声明は、再度のテロ攻撃で米側に被害が出た場合、「元締め」のイランに対し厳しい対抗措置を取る趣旨と受け止められた。抑止力を効かせたわけである。
さて、WSJの記事は、この過程でボルトンが、イランに対する軍事オプションの用意をペンタゴンに求めるという「普通でない要請」を行い、ペンタゴンと国務省が大いに懸念を抱いたとの「現および元当局者」の証言をクローズアップしている。
「殆ど被害をもたらさず負傷者も出なかった攻撃への対応として、NSC(大統領安保補佐官が中心)が、イランを叩く大規模な軍事オプションの提示を求めることに不安を覚えざるを得ない」というわけである。
さらに「ある元政府高官」が、「関係者はショックを受けた。イランへの攻撃を何と気楽に考えているのかと驚愕した」と記者に語ったという。証言者は全て匿名で、ボルトンにコメントを求めた形跡はない。
NYTは概ねWSJの記事をなぞりつつ、「トランプ大統領が米軍を引き上げ、中東での梃子が失われた時に、タカ派の安保補佐官ボルトンがイランとの紛争に飛び込みかねないという危惧を、国防総省高官らが口にしている」と読者の不安を一層煽る。
「ボルトンは危険」というイメージ自体は、ならず者国家への抑止力となるため、必ずしも悪いことではないが、単純な受け売りが同盟国に広がるようなら問題である。伊藤氏の論はその危険を示している。
上記の一連の報道に対し、次のような反論が出されていることも認識しておくべきだろう。
現に在外公館周辺で砲撃事案が発生した以上、攻撃のエスカレートに備え、イランへの軍事オプションを用意するのは当然であり、いざ重大事態となり大統領から攻撃指示が出た時「考えていなかった」では職務怠慢となる。「ボルトンは合理的になすべきことをなし、職責を果たしたに過ぎない」(ジョー・リーバーマン元民主党副大統領候補)。
▲写真 ジョー・リーバーマン元民主党副大統領候補 出典:Flickr; roanokecollege
マルコ・ルビオ上院議員(共和党)も、「これはボルトンに対する馬鹿げた批判だ。イラクのシーア派民兵はイランの支配下にある。イランは彼らを使ってわが兵を殺し、関与を否定するつもりだ。シーア派民兵によるいかなる対米攻撃もイランからの攻撃として扱わねばならない」と反撃する。
当時ボルトンの首席補佐官だったフレッド・フライツは、リーバーマンの言う通りでそれ以上でも以下でもないと証言する。上記諸記事も、思わせぶりなタイトルや表現に拘わらず、ボルトンが直ちにイラン攻撃を主張したとは書いていない。そこまでボルトンを無謀と描けばフェイク・ニュースになるという意識があるのだろう。
▲写真 フレッド・フライツ氏 出典:Flickr; Gage Skidmore
そして米側の強い警告が効いたのか、その後同種の攻撃は発生していない。なお現在また、イランに近い武装勢力による攻撃準備情報を受け、米軍はイランに対する軍事圧力を強めている。これも「犯罪」ではなく「侵略抑止」と捉えるべきだろう。
ちなみにWSJの5月15日付社説「イランに関しアメリカを最初に非難」(Blaming America First on Iran)は、1月の飛ばし記事の反省もあってか、ボルトン的姿勢を強く支持する内容となっている。
トップ写真:ボルトン補佐官(左)出典:U.S. Strategic Command
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