岩手県紫波町の稼ぐインフラ
Japan In-depth / 2019年8月24日 11時0分
こんな岡崎が「支えてもらった」と感謝するのは、前町長の藤原孝。「どうして岡崎に任せるのか。議会や住民などが抵抗した。でも、首長はぶれてはいけない。いざとなれば、私が責任を取るだけだ」
▲写真 藤原前町長 出典:著者提供
藤原は一服おいて、言葉をつないだ。「そのまま巨額の投資をしていたら、北海道の夕張市と同じような状況になっていた」。
町長に就任した際、藤原の最大の政治的な課題は、駅前の土地の活用方法だった。前任の町長が28億円を投じて購入を決定した。この土地に、役場や図書館、文化ホールなど総額134億円を投じて、ハコモノを造る計画だった。
藤原はもともと一代で東北有数の運送会社を築いた経歴だ。そんな目で見れば、計画通りの建物の建設は、無謀すぎる。税金は結局、将来のツケを残す。そこで、建設計画の白紙撤回を決断した。
ただ、この土地をどうするか。妙案が浮かばなかった。そんな時、知ったのは、岡崎が大学院に通い始めたことだった。アドバイスを受けよう。町長室で向き合った。岡崎の口から飛び出したのは「公民連携」だった。それは東洋大学の大学院で学んでいるテーマだという。
藤原は、岡崎の論理的な話を聞きながら、ピンときた。「公民連携」を活用すべきだ。役所だけではこんな大きな土地を開発する余裕はない。藤原は息子のような年の岡崎から教えを乞うて、決断した。
藤原はその後、異例のスピードで動く。2008年1月には「公民連携室」を発足させた。役場内の調整を引き受ける部署だ。藤原は振り返る。「首長は途中でぶれてはいけません。そうなったら職員がついてきません。無駄な時間はない。町長の仕事は方針を決めることだ。あとは職員がちゃんとやってくれる」
さらに、住民への説明が不可欠だ。藤原は2年間にわたって、およそ100回、住民説明会を開いた。その場では批判が相次いだ。「行政がやるべき仕事を放棄したのではないか」「プロジェクトに関わった企業が倒産したらどうするのか」。それでも、藤原は、膝を突き合わせて説明した。
補助金の獲得や公共事業の誘致に血眼を挙げる時代は終焉を迎えつつある。人口が減少している今、次世代にツケを残す結果になるからだ。行政に求められるのは、「稼ぐ」ことだと思う。そして、「戦う」「任せる」「責任を取る」。そんな首長の手腕も地域の将来を左右する。
トップ写真:岩手県紫波町オガールプロジェクト 出典:著者提供
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