由布院支えるカリスマ料理人
Japan In-depth / 2019年9月8日 18時0分
▲写真 左から江藤氏、新江氏、著者 出典:著者提供
それでは、どこから食材を調達するのか。野菜は、地元の農家だ。一括して請け負っているのが、江藤雄三が営む江藤農園である。
新江はどうしても、由布院産の野菜を使いたかった。江藤農園では、はつか大根、なす、トマト、パブリカ、クレソン、小松菜、バジルなどおよそ80種類を生産した。
収穫された野菜は、研究会のメンバーである旅館がすべて引き取る契約を結んだ。今では、およそ30の旅館が江藤から購入する。江藤には午前中の日課がある。それは、旅館に直接、野菜を届けることだ。
「旅館の料理人と会話して、『このサイズの長ナスが欲しい』『ナスの葉っぱ10枚くれ』と言われたりします。実際に、直接出向かわなければ、野菜の使われ方が分からない。例えば、水菜。サラダか、おひたしにするのか分からないと、良い野菜がつくれない。また相手の表情もじかに見たい。そして、旅館の料理人と、この時期はこの野菜、冬の鍋の時期はこの野菜といった具合に話し合うのです。料理人と一緒に、“食材”を一緒につくっていけるのです」。
江藤農園は、露地でも野菜を栽培しているが、35のビニールハウスをもつ。「ビニールハウスで栽培して、『この時期にこの野菜があれば、いいな』という料理人のニーズに応えるようにしています」。野菜だけでなく、盛り付けに使うモミジやマツなども届ける。季節感を演出するためだ。
市場に出荷するより安定的に収入を確保できる。それは江藤の人生も変えた。安定してまとまった収入を得られるようになった。
私が取材中に終始、頭をよぎったのは、スペイン北部にある人口18万のサンセバスチャンである。世界中の美食家を唸らせ、観光客が殺到する。サンセバスチャンには、数多くのバル(バー)がある。その最大の特徴は、ライバルであるはずのバルが互いのレシピを教えあっていることだ。
▲写真 サンセバスチャン 出典:著者提供
狭い路地にあるバル全体のレベルアップにつながっている。観光客は食べ歩きを楽しみ、長期滞在するという。そのやり方は、料理の技術は見て盗めという徒弟制度とは、一線を画している。
サンセバスチャンは元々、海の幸や山の幸、畜産などが豊富だった。しかし、素材だけでは勝負できない。そこで若いシェフたちが1990年代後半から、地元の料理界で革命を起こした。彼らは世界を旅してきた強者だ。地元の素材を生かし、世界中の味付けを加味した。さらに、一流店には「料理研究室」がある。科学的な料理研究も行っているのだ。わずか10数年でサンセバスチャンは様変わりした。
由布院はまさに、日本版のサンセバスチャンだ。洋の東西問わず、地域の食材を生かす料理人は、世界の人々を吸引する磁力がある。
トップ写真:新江氏のランチ 出典:著者提供
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