海自派遣の裏にサウジの凋落
Japan In-depth / 2019年11月4日 18時0分
文谷数重(軍事専門誌ライター)
【まとめ】
・中東への海自派遣検討では「イランとの対立回避」が強調されている。
・通例ではエネルギー安保面での「日イラン親善関係維持」が理由とされる。
・しかし、その背後には「サウジの地位低下と重要性低下」もある。
サウジアラビアの重要性は低下しているのではないか?中東への海上自衛隊派遣が検討されている。イラン問題が再燃した結果だ。米国は「タンカー攻撃や無人機攻撃はイランの仕業」と主張し同盟国に対イラン派兵を求めた。日本はそれに従う形での派遣検討を進めている。
しかし、同時に日本はイランとの対立回避も強調している。派遣検討はイランと敵対する米国の要求に応えた形だ。それでありながら「米国主導の有志連合には入らない方針」とした。イランとの敵対は絶対に避ける。その立場を明示したのだ。
なぜ、日本はイランとの対立回避に努力するのだろうか。そこにはサウジの地位低下も影響している。通例として説明されるエネルギー安全保障だけではない。サウジの重要性が低下した。それに伴いイラン重要性は相対的に向上した。これも対立回避を選択した理由である。
▲写真 サウジアラビア地図(CIA 2003年作成)
出典: Wikimedia Commons; Public domain
■ エネルギー安全保障
イランとの対立回避はエネルギー安保のためといわれている。石油供給元として重要であり友好は損なえない。そのような内容だ。
日本はイラン産石油確保に努力してきた。70年代末から米国と革命イランは敵対的関係に陥った。だが、その状況下でも日本は原油の輸入を続けてきた。(※1)
それは今日でも変わらない。核開発疑惑と米国圧力によりイラン産原油輸入は今年5月に停止した。それにも関わらず日本はイラン南パース・ガス田からの化石燃料入手を目指している。諦めていないのだ。(※2)
▲画像 地図左の大きい赤部分がカタールのノースフィールドと隣接イランの南パース・ガス田
出典: Wikimedia Commons; Pesare amol
それが有志連合に加入しないと説明されている。現政権は米国要求に服従せざるを得ない。だが政府としてはイラン権益はあきらめたくない。その折衷案が独自派遣による対立回避である。そのように解説される。
しかし、本当にそれだけなのだろうか? 他にも理由があるのではないか?それがサウジの地位低下である。以下、その内容を整理して説明する。第1が政治面弱体化、第2がエネルギー支配力低下、第3が将来見通し不良である。
■ 政治面での弱体化
サウジの地位は低下している。
まず第1として政治面での弱体化が挙げられる。サウジは中東随一の地域大国とされている。オイルマネーと米国との親密関係を背景に地域屈指の影響力を有していた。軍事力も装備面では高い水準にあった。だが、その地位には衰退の兆しが見えている。
イエメン紛争はそれを如実に示している。九月の敗北は記憶に新しい。部隊規模の投降発生と無人機による石油施設空襲は世界中に報道された。そもそも全く勝てていない。サウジ・UAE軍は米式最新装備を持ちながらイエメン一つ平定できていない。
しかも名声も失った。サウジは海上封鎖で無辜の市民を飢餓に追いやり赤痢流行を引き起こした。同時に病院・学校への無差別爆撃も行った。結果、中東世界さらには国際社会から批判を受けたのだ。
米国大使館移転でも無力を呈している。2018年のエルサレム移転ではサウジは何らの存在感も示せていない。サウジは米国に影響力を発揮できず米国もサウジの立場を斟酌しなかったのだ。サウジの沽券は疑わしくなったのだ。自称する中東世界の盟主ではありえない。そう見られるようになった。
これは各国との関係でも窺える。例えばトルコとサウジの力関係である。サウジは18年のカショギ殺害を認めざるを得ない立場に陥った。カタール国交断絶でも同じだ。サウジの強硬態度はさほどの効果も挙げずに終わった。
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