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チリ、APEC開催断念のわけ

Japan In-depth / 2019年11月8日 14時0分


▲写真 ピニェラチリ大統領出典:チリ政府ポータル


チリ内政混乱の直接のきっかけは、10月初めの地下鉄運賃値上げ。値上げに反対する学生らの過激なデモが暴動に発展。ピニェラ大統領は非常事態宣言を発令し、鎮圧を図ったものの、全土に反政府行動が拡大。大統領は地下鉄運賃の値上げ撤回のほか、新たな社会保障政策を提案、大幅内閣改造を行って事態収拾を試みたが、反政府抗議活動は収まらず、APECなどの開催断念に追い込まれた。



▲写真 10月サンディエゴのデモ出典:Wikimedia Commons; Carlos Figueroa


 


■ 貧困減少も、富の集中が顕著に


注目すべきは、今度の混乱の背景には中間層の台頭と経済格差の拡大という政治・社会的変化があることだ。チリ経済は新自由主義に基づく経済政策によって確かに高度成長を遂げ、マクロ的には成功したと言っていいい。チリは中南米で唯一、貧困率を30年前の40%から今日の10%台にまで削減した国である。新自由主義政策の推進によって貧困層が減り、中間所得層が増加。新自由主義政策下で軽んじられがちだった教育、社会福祉向上などを中間層が強く要求するようになったのが、最近の傾向である。チリの新たな中間層の矛先は富裕層に向かう。「新自由主義政策の結果、貧困は減少したとはいえ、富が極端に偏っている」(ラゴス元チリ大統領)という問題が表面化する。


国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)が今年1月公表した報告書でも、チリに関しては最も裕福な層に属する1%の人が社会全体の富の26.5%を所有、下位50%の富を合計しても、社会の富全体の2.1%にしかならないとされている。こうしたチリの「富の集中」の象徴として批判の矢面に立たされたのが、ピニェラ大統領本人である。


ピニェラ氏は航空会社や信用会社など多数の会社を経営するチリきっての大富豪で、かつて米経済誌「フォーブス」が世界の500人の富豪の一人に挙げたこともある。チリ・カトリカ大の政治学者の一人は「チリの中間層は政治的意識が高く、富の集中と経済格差拡大への不満が長年鬱積しており、今回それが爆発した」と指摘、今回の混乱が一時的なものではなく、今日のチリ社会の抱える構造的な問題に根差していると分析する。


実際、サンティアゴのメディアの報道によれば、貧富の格差を表すジニ係数でチリは0.454で、社会不安が発生する警戒ラインの0.4を上回っているという。



▲写真 セバスティアン・ピニェラ チリ大統領(右)出典:Flickr;Sebastián Piñera


チリの政治混乱について、中南米報道で知られる著名ジャーナリスト、アンドレス・オッペンハイマー氏は、チリはベネズエラなど他の中南米諸国とは全く異なり、現在の事態は経済的成功の結果起きたことであり、危機は克服されるだろうと比較的楽観的な見通しを述べている。しかし、中南米の専門家の間では「富の集中と社会的不平等拡大という新自由主義のひずみともいうべき問題を解消しない限り、チリが“優等生”から“落第生”に転落する恐れは否定できない」(ECLACの専門家)といった見方が広まりつつあるようだ。


 


トップ写真:チリ、サンディエゴ 出典:Flickr; C64-92


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