動物の殺処分と安楽死を考える「アニマルウェルフェア」
Japan In-depth / 2019年11月17日 22時59分
ロスト氏の講演後、滝川氏がロスト氏に「今一番必要なことは何か」と質問した。これに対して、ロスト氏は「協会は年間1000万ユーロ(約12億円)を必要とするが、政府による補助がなく、財政の60%は一般の寄付によるものであるため、経済的な支援が必要だ。」と答えた。
▲写真 ロスト氏に質問にする滝川氏 ⒸJapan In-depth編集部
後半は「動物のニーズを満たす」について、加隈良枝氏(帝京科学大学 准教授)の講演が行われた。加隈氏はアニマルウェルフェアを「人間による動物の利用を認めながら、動物により良い生活をさせる考え」と定義付け、動物の心、体、自然状態を理解し、動物にとって何がベストなのかを中心に考えることが重要だとの考えを示した。
次に、佐伯潤氏(日本獣医師会理事)が「殺処分方法の方法の理想と現実」について講演した。佐伯氏は安楽死について「獣医師に認められた最後の治療法」であり、獣医師もまた本当に正しい決断と選択をしたのかと悩み続けている、と話した。「安楽死=獣医師の敗北」という一般的な考え方に対して佐伯氏は「医者にとって死は敗北ではない。」と述べ、「動物を苦痛からどう解放してあげるかを考えることが重要である」と自身の思いを語った。
最後に、17年間アメリカでシェルターメディスンを勉強した田中亜紀氏(日本獣医生命科学大学助教)は、「安楽死はサイエンスでありメディスンである。そして科学であって動物に対する尊厳である」と述べた。そのため、安楽死による痛みは最小でなければならず、動物の状態を配慮してその動物に合った安楽死の方法を探す必要があると訴えた。
また田中氏は、アメリカの殺処分ゼロのプレッシャーによる悪影響にも触れた。アメリカではどんなに良いシェルターでも安楽死を実施すれば叩かれるため引き取りの拒否、年単位のケージ生活、多頭飼育崩壊の助長などの問題が起きている。それによって譲渡ができず、殺処分もできないというジレンマが生じている、と紹介した。
▲写真 登壇者クロージングセッション 左から堀江氏、田中氏、佐伯氏、ロスト氏、野原氏(通訳)、加隈氏、司会者 ⒸJapan In-depth編集部
その後、殺処分ゼロに関するクロージングセッションが行われた。佐伯氏は「臨床現場でやれることは臨床現場でやる、安楽死に対する正しい理解が必要だ。」と述べた。
加隈氏は「現場の人が知識を増やすだけではなく、飼う側も正しい知識を持つべきである。」と述べた。田中氏は「法律で全部の問題を解決できないが、しっかりと整備することが大切だ」と訴えたのに対してロスト氏は「国と国のシチュエーションを比較するのが難しい。国によっては状況が違うし抱えてる問題も異なる。」と動物福祉の課題を提起した。最後に堀江氏は「こういう機会をきっかけに、1人1人が何をできるのかを考えることが大切だ。」と全体をまとめた。
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