大牟田市、認知症対策で注目
Japan In-depth / 2019年12月8日 19時0分
出町譲(経済ジャーナリスト・作家、テレビ朝日報道局勤務)
【まとめ】
・認知症で不明になっても安心のまちづくり。
・認知症対策としてメール配信システムや声掛け模擬訓練実施。
・認知症になっても安心して暮らせる町作りが求められている。
住民が老若男女問わず、その地域で生活して良かった。そんな実感を抱けるかどうか。それが地方自治体の使命だと、私は考える。自治体は、安心・安全な環境をつくり、家庭や地域の困りごとを少しでも手助けすべきだ。
「親が認知症」「子どもが家で引きこもり」など、困っている人に目配りが届く。そんな優しい行政こそが、求められている。大きなハコモノを建てたり、派手に立ち回る人ばかりに、スポットライトをあてる行政とは真逆のやり方だ。「優しさ」こそが、行政の大事なキーワードになる。
その意味で、私が刮目しているのは、福岡県大牟田市である。認知症になった人が不明になっても安心できるまちづくりだ。地域ぐるみで見守る。
具体的にはこうだ。家族がまず、警察へ捜索願いを出す。すると、市内の役所や企業、公共機関などに捜索者の情報が配信される。その情報は市民、およそ6500人にも送られる。「愛情ねっと」と呼ばれるメール配信システムに登録しているからだ。登録者は学生から年配の方まで幅広い。実際にこのシステムで95歳の母親をみつけてもらった人はこう話す。
「母親が、早朝5時半ごろ草刈りに行った。15分ほど経って、庭をいつものようにみたらいない。母親は突然いなくなった」。
この人は、警察に届けると、母親はすぐに見つかった。「愛情ねっと」に登録していた人が見つけた。
この母親は認知症だったが、自分の名前を認識しているという情報があった。そこで、登録した人が、名前を呼んだら、「そうです」と答えが返ってきた。一件落着だ。
▲写真 「愛情ねっと」携帯メールの受信画面 提供:大牟田市保健福祉部
市の担当者は、「届け出がなくても、市民が自主的に路上で戸惑っている人に声をかけている。『愛情ねっと』に出る前に、すでに保護されるケースが多い。市民の声かけが浸透している」としている。
どうしてこんな「優しい」まちとなったのか。きっかけは、2000年に始まった介護保険制度だ。大牟田市では、「介護保険制度をより良いものにするため、事業者と一緒にサービスの価値を引き上げる必要がある」と考えた。その柱の一つが、認知症対策だった。「認知症の人とともに暮らすまちづくり」を宣言し、さまざまな政策に取り組んだ。
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