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私のパフォーマンス理論 vol.40 - 成功体験

Japan In-depth / 2019年12月19日 11時16分

2、変われなくなる


成功体験はとても強いので、成功するまでに取り組んだこと、その時にやっていたことが自分にしっかりと焼き付けられる。これはもうほとんど自分でも抵抗し難いぐらいの強さで刷り込まれる。もちろん勝利した時のやり方がある程度有効だったからこそ勝利した可能性はあるが、しかし、ライバルもそれから自分もさらには環境も全ては常に移ろいゆく。何かが変わればあの時に通用した成功パターンは、いつしか通用しなくなり、新しいやり方への変更を迫られる。また相手チームもこちらを分析してくるのでそれによっても有効な戦い方は常に変化する。つまり変わり続けるしか勝ち続ける方法はないのだが、成功体験は自ら変わるということに強い制限をかけてしまう。なぜならばあのやり方であの時うまくいったという記憶を持ってしまっているからだ。


私自身、一度メダルを取ってスランプになった後、自分は新しい自分に変わらなければならないといつも思っていた。けれども少しでもうまくいかなくなるとまた前のやり方に戻ろうとしてしまった。古い手法は少なくとも慣れているし予想がつく。新しい手法は予想がつかないのでどうなるかわからない。人間は予想がつくものを好む傾向があり、特に過去に成功体験を持った人間はなまじこうすればうまくいくという記憶を持ってしまっているが故に古びていてもあの時のあのやり方に固執する。変われないことは例外なく衰退を招く。成功体験は変わらないでも戦えるという間違った学習を集団に植えつけてしまう。


3、世間に賞賛される味を覚える


世間は成功を褒め称える。世間なんてと思っていても、褒められれば悪い気はしない。私のような性格であれば余計に嬉しくなってしまう。この世間の賞賛は強い報酬になるから一度成功してこれを記憶してしまうと、世間の賞賛を求めるようになる。また真面目な選手であれば世間が期待することに応えようとするようになる。ところが、世間というのは情報量が溢れていることもありどうしても表面的なものにしか反応しない上に、慣れるという特性がある。選手が同じ成果を出し続けても(これがいかに大変なことか)次第に世間はそれに慣れていき反応しなくなっていく。もっともっとと求めていくうちに次第に、自分らしいやり方と乖離が生まれていく。


スポーツにおいて世間が民主的に出した答えよりも選手一人の過去の経験からくる直感の方が当たることが多い。成功する前は比較する対象もなく自分のやり方を貫くことができるが、成功してからは常に世間の期待が耳に入ってくるので、周囲の期待や賞賛を無視して自分のやるべきことに集中する能力が必要とされるようになる。成功体験を何度も繰り返した選手は、世間が盛り上がっても自分だけ冷めておくことができるが、最初の喧騒には多くの選手が巻き込まれてしまう。そして、その時覚えた世間の賞賛の味が忘れられなくなり、自分の競技をしているようで世間に振り回されながら漂っている選手も多くいる。


成功体験はただの記憶に過ぎない。ただ、この記憶は強烈な慢心を自らに刻み込んでしまう。全くの余談かつ、競技の世界の論理を当てはめていいのかわからないが、私にはこの国は集団的成功体験の呪縛から長らく逃れられていないように見えている。


トップ画像:Pixabay by Free-Photos


 


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