トランプ弾劾、宙に浮いたまま
Japan In-depth / 2020年1月8日 23時0分
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・下院で可決された弾劾訴追案が上院に送られないのは異例。
・背景には弾劾審議を長続きさせたい民主党の政治的意図。
・トランプ大統領の支持率は上昇する結果に。
アメリカ議会の下院が昨年12月18日にトランプ大統領弾劾の表決をしてからすでに3週間、通常ならその後すぐに弾劾案が上院に送られて審議されるのだが、今回はそのまま宙に浮くという前例のない異様な状態が続くままとなった。
この事態は弾劾案を推す下院民主党指導部があえて事案を上院に送らず、上院での審議に注文をつけるという態度をとっていることから起きてきた。下院民主党側は弾劾案を共和党多数の上院に送れば、すぐに否決されてしまうという見通しから、あえて座りこみのような保留という新作戦に出たわけだ。
しかしその間、肝心のトランプ大統領はかえって支持率を高め、政治資金も記録破りの巨額が集まり、弾劾自体が仕かけた側の民主党をかえって傷つけるというブーメラン現象がはっきりとしてきた。
トランプ大統領に対する弾劾動議は下院で「権力の乱用」と「議会の妨害」という二つの糾弾条項でともに可決され、訴追された。その訴追結果が上院に送られ、判決に等しい裁決が下されることとなる。
アメリカ大統領の弾劾は史上3回しかないから、前例からの判断も簡単には下されないが、通常、下院での訴追はすぐに上院の送られることが一般に当然視されてきた。現に前回の1998年の民主党ビル・クリントン大統領に対する弾劾措置でも下院から上院への送付は即刻だった。
ところが今回は下院で民主党の指導権を握るナンシー・ペロシ議長が上院への送付の手続きを拒んだままとなっている。同議長は上院での審議について、その訴追案の管理責任者の任命や証人の喚問に特定の要求を示し、上院の多数派の共和党議員たちがそれに同意することを迫っている。
ペロシ議長のこの行動に対しては憲法学者のなかでも「弾劾案を下院が可決しただけでは訴追したことにはならない」として批判する声も出てきた。大手紙のウォールストリート・ジャーナルも社説で「ペロシ議長は憲法の規定を守らずに党派の戦いのみを考えている」と非難した。
ペロシ議長がこうした行動に出るのは、弾劾訴追案が上院で審議されれば、多数を占める共和党議員たちによってすぐに葬られる見通しが確実なため、「トランプ大統領が弾劾訴追を受けた」という構図をできるだけ長く保ちたいという政治的動機が指摘されている。
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