日ロ「歴史戦」と敵国条項
Japan In-depth / 2020年2月19日 23時42分
「ソ連側は、北方四島の占拠の根拠としてヤルタ協定を挙げ、同協定が、国連憲章107条により、戦後秩序の一部として日本を拘束すると主張しております。これに対し私どもは、ヤルタ協定はこれに参加した首脳たちが共通の目的を述べた文書にすぎず、領土移転のいかなる法的根拠も持ち得るものではない、その当然の帰結として、国連憲章107条はソ連側の北方領土占拠にいかなる根拠を与えるものでもないし、全く関係のない規定である、そう反論しておる次第でございます」
これが、河野外相が改めて内外に宣明すべきだった日本政府従来の立場である。なおロシア側は、8月15日でなく9月2日(日本の降伏文書調印の日)を「大戦終結記念日」と定め、北方領土占領は大戦中の行為と強弁している。日ソ中立条約違反と共に、日本側が明確に反論せねばならぬポイントの一つである。
要するに河野外相の姿勢はきわめて問題だった。ラブロフ氏は、明確に日本世論に影響を与える意図をもって発言している。一方河野氏には、ロシア世論に訴える気構えが全く見られない。
あるいは、交渉が最終局面に至っているので相手を刺激したくなかった、と言うかも知れない。しかしあらゆる徴候は、予見しうる将来、ロシアが北方4島どころか2島いや1島すら返す気がないことを示している。
従って現在なすべきは、「予見し得ない将来」を睨んで、布石を打つ作業である。すなわち、日露両国および国際社会の歴史認識に変化をもたらすべく、長期にわたる情報・広報戦を戦う姿勢がなければならない。
同時期にロシアのガルージン駐日大使と産経新聞の斎藤勉論説顧問の間でなされた論争が参考になる。
講演で、「北方領土については紛争ではなく、独裁者スターリンの指令による国家犯罪だ。日本のポツダム宣言受諾後、火事場泥棒的に強奪した」と話した斎藤氏に対し、ガルージン氏が「第二次大戦時、日本は最も罪深い犯罪者であるヒトラー政権と同盟していた。『死の工場』と言うべき強制収容所が作られ、ロシアを含むヨーロッパの何千という街が破壊された。斎藤さん、あなたはこのことを忘れたのか」と反論した。
▲写真 ヨシフ・スターリン 出典:パブリックドメイン
早速斎藤氏が「ヒトラーは『最も罪深い犯罪者』だが、スターリンは違うと言いたいのか。『同盟国』ゆえに日本もナチスと同じ犯罪者だというのか。大使ご指摘の『死の工場』といえば、シベリア抑留の残虐非道はどう説明されるのか」と再反論している。
斎藤氏には、日露両国民ともにスターリンの被害者という認識がある。従って決して反露的な言説ではない。
付け加えれば、第二次大戦は、ヒトラーとスターリンが東西からポーランドに侵攻することで火蓋が切られた。独ソ秘密合意に基づく行動であった。すなわち攻撃的同盟を組んで大戦を始めたのはドイツとソ連である。その後ドイツ軍がソ連にも攻め込んだため、ソ連は「連合国の一員」として終戦の日を迎えたに過ぎない。第二次大戦における最重要ポイントの一つである。
トップ写真:プーチン大統領と安倍首相 出典:ロシア大統領府
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