米大統領選が映す日本の危機
Japan In-depth / 2020年3月6日 11時0分
問題は同氏が、外交安保政策において徹底した「非介入主義」(non-interventionism)を取る点である。サンダース氏は2003年のイラク戦争はもちろん、1991年の湾岸戦争開戦にも反対した。
その反対の論理が興味深い。次のように述べている。
サダム・フセインによるクウェート侵攻は許しがたい暴挙であり、最も強い言葉で非難する。あまりに明白な侵略であるがゆえ、珍しく国際世論も一致して、イラク軍撤退を求めている。従って、武力でなく国際世論や経済制裁の力で撤退を実現することが可能であり、その道を追求しないなら人類の未来はない―。
一方、国際的に議論の分かれる紛争事案においては、サンダース氏は、国際世論に一致が見られない中で、米軍の単独介入などあってはならないと主張する。
要するに、いかなる場合でも米軍は海外の紛争に介入してはならないというわけである。もちろんサンダース氏も、アメリカ自らが攻撃を受けた場合には、軍の最高司令官として遅滞なく断固とした措置を取ると述べる。
自国の防衛以外には軍事力を使わず、海外派兵はしない。要するに戦後の日本の立場と同じである。従って、日本政治からサンダース氏を批判する論理は出てこない。自ら、サンダース政権出現による抑止力の大幅低下に備える以外ないだろう。
サンダース氏は手続き論においても、自己防衛以外の軍事力行使には、憲法上、議会の明示的な承認が必要だとする立場を取る。
歴代大統領はいずれも、時に議会に支持を求めることはあっても、原則として、最高司令官たる大統領には米軍を動かす広範な裁量権があるとの立場を取ってきた。自ら手を縛る解釈を取る辺り、徹底した非介入主義者たるサンダースの面目躍如と言える。
以上に鑑みれば、例えば中国軍が尖閣諸島に上陸した場合、サンダース大統領が直ちに米軍に出動を命じるとは考えられない。当然それは、中国側のリスク計算に影響を与えるだろう。
サンダース氏は徹底した「反化石燃料主義者」でもある。石油・石炭・天然ガスへの依存から速やかに脱却し、太陽光、風力、地熱などの再生可能エネルギーに完全転換することを説く。
また福祉や国内インフラ整備(それは公共事業関連の職を作り出すことでもある)の費用を捻出するため、軍事費を徹底整理すべきことも説く。
その二つの要請が相まみえる点の一つとして、サンダース氏は、中東を起点とする国際石油輸送ルート(シーレーン)の米軍による防護を打ち切る方針を示している。アメリカ自身が石油から脱却する以上、輸送ルート防護に関与する必要はないし、他国に石油依存からの脱却を促す意味では関与してはならないとの論理である。これが実行されれば、石油の9割近くを中東に頼る日本にとって由々しき事態となろう。
こうした状況が約1年後に現れるかも知れないのである。結果的に、トランプ再選ないしバイデン当選となっても、「サンダース大統領」を想定した安保体制の強化は何ら無駄にはならない。むしろサンダース氏台頭を奇貨として遅れを取り戻す。そうした政治意思が必要だろう。
トップ写真:サンダース上院議員 出典:Photo by Jackson Lanier
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