人類と感染症6 スペイン風邪、サンフランシスコ市のマスク条例
Japan In-depth / 2020年4月19日 11時0分
ただ、マスク着用に反対する意見も根強かった。商店の人々は「店員がマスクをしていたら、客が怖がって購買意欲を失う」と主張した。「マスクの着用を許せば、ワクチン接種の強制、人体実験なども許すようになる」と反対する人もいた。マスクの着用は、「歌手から歌う権利を奪う」という意見まで飛び出した。
こうした反対論を押し切って、つくられたマスク条例だが、11月に入って「逆風」が吹いた。きっかけは、スペイン風邪の患者数だ。10月後半に週当たり8682だったのが、11月の最終週では57と急減した。サンフランシスコ市は11月21日、マスク条例を解除した。マスク反対派の意見に押し切られた格好だ。
この日は、第一次世界大戦で、連合国側が勝利したタイミングだった。人々は大戦が終わり、マスクの着用からも解除され、安堵していた。11月第四木曜日の感謝祭は、例年以上に、沸いた。公立学校も再開された。サンフランシスコ市はスペイン風邪の終息を宣言した。しかし、それもつかの間だった。患者数が再び、静かに上昇し始めたのだ。
サンフランシスコ市は慌てて、マスクの着用を再び呼びかけた。マスク着用を再び義務付けるかどうか。それが政治テーマとなった。反対する人たちは「反マスク同盟」をつくった。
サンフランシスコ市は揺れた。いったんはマスク再着用に動いたものの、その後、市長はマスクを外してもいいという声明を出した。染拡大防止か、経済か。今と同じテーマに、サンフランシスコ市は右往左往し、結局、感染拡大を止めることができなかった。
あおりを食ったのは市民だ。18年9月から翌年1月までの間に、5万人を超す市民が感染し、3500人が亡くなった。そのうち3分の2は、20代から40代の人だった。
新型コロナに揺れる今、100年前のマスク条例は多くの教訓を秘めている。数字が少し落ち着いたからといって、警戒を解けば、ウイルスは牙をむく。目に見えない“敵”は強力だ。歴史上おびただしい数の人間を殺してきたウイルスを甘くみてはいけない。ウイルス退治のためには、ぶれない行動することこそが、重要だ。毅然たる政治のリーダーシップが問われている。
(続く)
トップ写真)マスクを着ける男性
出典)OpenSFHistory
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