金正恩「重病説」の真の意味
Japan In-depth / 2020年4月23日 23時0分
だが今回はまだ不明のままである。
そんななかでアメリカの北朝鮮研究専門家たちの間では金氏の「重病説」を踏まえて、アメリカや韓国、日本などが十二分に認識しておかねばならない事実を強調する向きがある。
そこで指摘される事実の第一は金正恩氏が間違いなく深刻な健康問題を抱えていることである。
アメリカ政府側ではこれまでも中央情報局(CIA)が主体となって、金正恩氏のプロフィール研究を積み重ねてきた。金氏の知的、精神的、肉体的な特徴や現状を詳しく調べる作業である。そんな作業は北朝鮮政権の極端な閉鎖性もあって、きわめて難しいわけだが、ときおり流れてくるそのプロフィール研究では、金正恩氏は重度の糖尿病や循環器疾患に悩まされ、その原因としては過度の飲酒、喫煙、過食などがあげられてきた。
CIAなどのこの種の領域での研究では金正恩氏の好むタバコや酒の具体的な種類から食事面での特定の好物までが列記されてきた。こうした研究の総括としては金正恩氏はいつ重病を起こしても不自然ではないという判断だったといえる。
いまの「重病説」の背景にはこうした実態が存在するのである。
第二の事実としては、金正恩独裁体制のいまの北朝鮮最高指導部が政権継承の手筈をなにも決めていないことがあげられる。
この点の指摘の代表例はアメリカ陸軍の対北朝鮮諜報活動に長年、かかわったデービッド・マックスウェル氏の論文である。同氏はワシントンの安全保障研究機関「民主主義防衛財団」の上級研究員で、この論文を4月21日に発表した。
▲写真 「民主主義防衛財団」のデービッド・マックスウェル上級研究員 出典:The Foundation for Defence of Ddemocracies
マックスウェル論文の骨子は以下のようだった。
・金日成氏は後継者として金正日氏を自分の死の20年前の1974年にすでに指名していた。金正日氏は後継者として自分の死の1年以上前の2010年に金正恩氏を指名していた。だが金正恩氏は後継者指名には一切、手をつけていない。
・金正恩氏は後継者としては妹の金与正氏を最近、要職へと昇進させ、自分の政権の継承を考えているようにもみえるが、公式の指名のような手続きはまったくない。このため金正恩氏の突然の重病や死去に際しては政権中枢部での混乱や衝突が予測される。
▲写真 金与正氏(2018年2月10日 韓国・ソウル)出典:韓国大統領府ホームページ
・世襲の金政権では女性の最高指導者を認めるか否かは不明であり、労働党や人民軍の上層部では混乱や衝突も予測される。地方の党や軍の幹部が造反して、政権全体が機能しなくなる可能性も考えられる。この種の混乱が政権崩壊を招く可能性もあり、アメリカ、韓国、日本などはそういう事態を想定しての対応策の考慮が欠かせない。
以上のような側面の重要性を指し示すのが今回の「金正恩委員長重病説」の拡散の意味だというのである。
トップ画像:北朝鮮の金正恩委員長 出典:flickr; Democracy Chronicles
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