米比地位協定「破棄」保留の今後
Japan In-depth / 2020年6月5日 11時18分
■南シナ海での中国の活動活発化
南シナ海では中国が一方的に自国の海洋権益が及ぶ範囲として「九段線」を設定しているが、フィリピン、ベトナム、マレーシアなど領有権を主張する各国はこの「九段線」を一切認めていない。2016年7月にはフィリピンからの提訴(2013年)を受けた国連海洋法条約に基づくオランダ・ハーグの仲裁裁判所が「中国が主張する九段線に法的根拠はない」との裁定を下したが、中国は完全無視の姿勢を貫いている。
▲写真 南シナ海で軍事訓練を行う中国海軍(2019年5月29日-6月3日) 出典:China Military
現在東南アジア各国政府が中国から世界に拡大したとされているコロナウイルスの感染拡大阻止の対応に集中せざるを得ない状況にあるが、中国はこうした事態をある意味で「利用する形」で4月から調査船「海洋地質8号」を南シナ海に派遣して南下させ、ベトナムやマレーシアの排他的経済水域(EEZ)内での違法な調査活動を続けた。
こうした活動に対し米海軍とオーストラリア海軍は複数の艦艇を同海域に派遣して中国を牽制した。
4月2日には南シナ海西沙諸島のウッディ島付近で操業中のベトナム漁船が中国海警局所属の船舶「4301」と衝突して沈没する事案も発生している。さらにフィリピンが実効支配している南沙諸島のセカンド・トーマス礁の周辺海域に中国海警局の船舶「5302」が接近して示威行動をとったことも明らかになっている。
一方で中国は人工島や実効支配する島などで海事調査拠点と称する軍事施設の建設や拡張整備を続けるなど、周辺国の神経を逆なでし続けている。(参考:4月10日「コロナ禍、中国南シナ海で攻勢」)
こうした事態に米政府は中国に対して懸念と深い憂慮を示し、国際社会に対し中国包囲網構築を呼びかける事態になっている。コロナ禍の影響で6月開催から9月以降に開催が延期された「先進7カ国首脳会議(G7)」にトランプ大統領が5月30日、ロシア、オーストラリア、インド、韓国の首脳を招待したいと表明したが、その背景には中国包囲網に日本を含めたG7のメンバーに加えて、それら4カ国を取り込みたいとの大統領の強い意向があるといわれている。
■VFA破棄の回避は依然不透明
フィリピン政府は、今回のVFA破棄通告の見直しは即座に「破棄を完全に撤回」するものではなく、正確には「破棄通告の効力を6月1日から6カ月停止」するものだと説明している。つまり現状では、8月に失効するVFAの破棄通告の効力を半年延長して様子を見る、というもので将来に再度破棄通告を有効化してVFAを破棄するという選択の余地を残しているのだ。
こうした柔軟というかはっきりしない姿勢にはドゥテルテ大統領独特の「融通無碍さ」あるいは「変幻自在さ」が表れているとも言えるだろう。
米側もとりあえず8月に迫ったVFAの失効が当面回避されたことを歓迎してはいるものの、今後のドゥテルテ大統領の出方を注視する姿勢に基本的に変化はなく、米側にしてみれば対中国とともに対フィリピン外交でも「余計な神経戦」を続けざるを得ないことには変わりがなさそうだ。
トップ写真:会談するトランプ米大統領(左)とドゥテルテ比大統領(右)(2017年11月13日 マニラ)出典:White House
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