拉致問題を否定した日本人達
Japan In-depth / 2020年6月13日 12時23分
▲写真 来日中のトランプ大統領と面会する拉致被害者家族ら。安倍首相の右隣りに横田めぐみさんの母・早紀恵さん、その右隣りでめぐみさんの写真を持つ弟・拓也さん、早紀恵さんの後ろに弟・哲也さん。(2019年5月27日 赤坂迎賓館) 出典: White House
だが当時の日本ではまず、「北朝鮮による日本人拉致など存在しない」とする全面否定があった。表現こそ多様だったが、そんな事件はそもそもないのであり、あると明言する側を「危険な反朝鮮民族の反動分子だ」と断じる向きも少なくなかった。否定論だった。
当事者の北朝鮮政府や日本にある朝鮮総連も正面から否定し、拉致を提起する側を危険分子扱いしていた。日本側でも政治家、学者、そしてほとんどの新聞やテレビの姿勢がそうだった。
次に拉致の事実の否定が難しくなった段階では「北朝鮮の国交樹立のためには拉致問題など持ち出してはならない」という主張が顕著となった。国交樹立のためには「ほんの十数人の人間がかかわるだけの拉致事件などにとらわれてはならない」という外務省高官の言明さえ出ていた。一部のメディアは強硬にこの主張を続けた。拒否論、あるいは無視論ともいえよう。
さらには拉致の具体的な実態までが明らかとなった段階でも、「拉致はあったかもしれないが、日本の朝鮮半島侵略の非人道的行動をまず考えよう」という声が起きるようになった。一部メディアがしきりにこの種の理屈を熱心に発信した。拉致事件の解決自体を目指すなという拉致の軽視論、あるいはすりかえ論だった。
この種の主張のために日本全体としての拉致事件解決の努力がどれほど阻害されたかは測りしれない。この拉致事件の否定、拒否、無視、軽視、すり替えなどの実態を詳しく実証した貴重な本がある。
2003年1月に刊行された『拉致の海流 個人も国も売った政治とメディア』(恒文社)という書(※写真)である。筆者は産経新聞の政治部記者やニューヨーク支局長を務めた山際澄夫氏だった。
▲画像 『拉致の海流 個人も国も売った政治とメディア』(恒文社)
同書はすべて当事者たちの実名をあげて、拉致問題を否定、無視、軽視した側の当時の言動を伝えていた。そこには実に多数の人物や組織が糾弾されるべき側として登場する。いまこの本を読み、その刊行から17年が過ぎた現状と照らし合わせることも、日本の政治やメディアの有益な研究となるだろう。
トップ画像:北朝鮮による日本人拉致被害者たち 出典:必ず取り戻す!北朝鮮による日本人拉致問題:政府広報オンライン
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