敵基地攻撃は予防攻撃と呼ぼう
Japan In-depth / 2020年9月3日 18時0分
この用語は「予防攻撃能力」と変えるべきである。
いま自民党内での論議で求めているのは単なる攻撃ではなく、相手の攻撃を予防するための攻撃の能力だからだ。
予防攻撃というのは国際的に広く認められた概念である。英語ではpre-emptive strikesとなる。pre-emptiveとは未然に防ぐ、起きてはならないことを起こさせないようにする、という意味である。だから日本にとっての自国に被害を及ぼす脅威や危険がその実効力を発揮することが確実となった際に、その危険を事前に除去する、ということになる。
ところがこの英語のpre-emptive strike という言葉は日本ではなぜか「先制攻撃」と訳されることが多い。この訳は不正確である。相手より先に攻撃することは確かだが、相手からの攻撃が切迫したという大前提があってこそなのだ。だから単純な「先制攻撃」という日本語訳はまちがいでさえある。
「先制攻撃」をそのまま元の英語に訳せば、first strikeとなる。これでは事情や前提にかかわらず、とにかく最初の攻撃をする、という意味になってしまう。
私はこのpre-emptive strike の実態をベトナム戦争の取材で知った。古い話だが1970年代前半のベトナム戦争中、私は当時の南ベトナムで米軍の軍事行動を報道していた。そのころの米軍は南ベトナムに攻撃をかけてくる北ベトナム軍の拠点を空爆していた。その際には米軍機が北ベトナム上空を飛び、北側から対空砲火レーダー照射を浴びると、もうその瞬間に攻撃を受けるに等しいという判断を下してその照射の発射源にロケットやミサイルを即時に撃ち込んでいたのだ。
▲写真 ベトナム戦争米軍 出典:Pixabay;Welcome to all and thank you for your visit ! ツ
米軍はこの種のレーダー照射を受けることをlock on と表現していた。つまりカギをかけるように攻撃目標として捕らえられるという意味だった。米軍機がlock onされれば、米軍機側も瞬時にそれを探知する。その状態はもう敵がこちらを撃つために照準を合わせたことであり、即座に自衛のために攻撃に移る、という実態だった。
この攻撃方法がpre-emptive strike と呼ばれていた。だから当時の私はその攻撃を「予防攻撃」と訳していた。
今の日本での論議もあくまで相手の攻撃が確実になった場合の予防措置としての攻撃が主題のはずである。だから予防攻撃能力と呼びことが適切だと思うのだ。
(この記事は 一般社団法人日本戦略研究フォーラムのサイトの「古森義久の内外抗論」という連載コラムからの転載です。)
トップ写真:Chinese Air Force Museum 出典:Flickr; Thomas Vogt
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