米大統領選、民主主義の危機
Japan In-depth / 2020年9月20日 14時5分
植木安弘(上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授)
「植木安弘のグローバルイシュー考察」
【まとめ】
・米大統領選巡り、民主主義の危機が叫ばれている。
・トランプ氏、郵便による期日前投票は不正の根源と主張。
・氏が敗北しても大統領職離れぬ場合どうなるのか、懸念広がる。
今、米国で民主主義の危機が叫ばれている。来る11月3日の大統領並びに議会選挙で、民主主義の基本である民主選挙のあり方が問われているからである。
世界人権宣言や市民的政治的権利条約などでも、国民の意思が統治権力の基礎となる民主主義原則が謳われており、定期的かつ真正な選挙によって統治者が選ばれ、統治の正当性が築かれる。
米国は民主主義の大御所であり、歴史的な実験の場であることを自負し、これまで第二次大戦後、さらに冷戦後民主主義の拡大に貢献してきた。その米国が自らの民主選挙の正当性に対して大きな疑念を呈しているのである。
その根底には、現職のドナルド・トランプ大統領が民主党の対抗馬ジョー・バイデン候補に劣勢が伝えられている中、選挙に敗れた場合、選挙そのものの正当性を否定しようとしていることにある。
その理由として、郵便による期日前投票は不正の根源であるとの主張がある。さらに、急進左派の反ファシストグループ(Antifa)や民主党左派などが、民主党候補が敗れた場合には暴力行使も辞さない反対デモを強行し、混乱に陥れるとの危機感を醸し出していることがある。実際にそのようなことは計画されていないものも、そのような主張はトランプ大統領による選挙キャンペーンでプロパガンダとして利用されている。
▲写真 Antifa 2017年12月9日 出典:flickr: Old White Truck
郵便による期日前投票は米国全土で認められているが、そのやり方は州によって異なる。基本的には三つの方式がある。一つは、州法で投票権を持つ有権者全員に自動的に郵便で投票用紙を事前配布する方法。ワシントン特別地区とカリフォルニア、ネバダなど9つの州がこの方式を採用している。二つ目は、希望する有権者には投票用紙を事前配布する場合。ペンシルベニアやフロリダなど34の州はパンデミックのために特段の理由がなくでも配布出来る。三つ目は、特定の理由がある場合にのみ投票用紙を事前に配布する場合である。この方式は、テキサスやニューヨークなど7の州で採用している。(この数字は8月11日のニューヨーク・タイムズ紙のデータに拠る)これまでは不在者投票と区別されることが多かったが、コロナ禍のパンデミックによって郵便による投票に大きな関心が集まり、ほぼ同様に扱われている。
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